【VODはキャズムを越えたか】その1)ぼくがテレビで何を観ればいいか、教えてくれるテレビが欲しい。
さてこのメタラボでは、しばらく【動画元年2014】のシリーズで書いてきましたが、年も明けて2015年になったことだし、今度はVODをテーマに何回か書いていきたいと思います。何しろ、VODはいま上り調子。HuluのCMでは淀川長治さんが映画を勧めるし、キャリア系のVODサービスも加入者をぐいぐい伸ばしているようです。極め付けは、今年はNetflixが日本に上陸するらしい。この情報、不思議なのですが、会う人会う人皆さん「今年は来るんでしょ」とおっしゃるのですが、いつどうやって誰と組んでやって来るのか、誰も確かなことを知らないらしい。でもこれだけ皆さんが言うのだから、来るんでしょうね、Netflix。おれは事情を知ってるんだけどな、という方いたら、こっそり私だけに教えてください、ぜひ!
私は自分のブログでもVODについてずいぶん前から書いてきました。少し前はVODの話になると「日本人は映像コンテンツにお金を払う感覚がないんだよ、無料で見れるテレビが充実してるからさ」としたり顔で言う人が多かったですが、そんなことはない!と言いつづけてきました。結果的にはその中間的な、SVODつまり定額サービスが伸びるポイントになっていますね。
私自身、AppleTVを早くから使っていて、テレビでVODを楽しんできました。ある時期からはAppleTVのメニューにhuluも入り、こちらもかなり使っています。映画やドラマが大好きなので、毎週末、新しく追加された作品をチェックして、どれを観ようかとワクワクしています。
ただ、ワクワクの高揚感に対しじっさいに視聴に至る回数がとても少ないです。ワクワク度がそのまま視聴につながらない。なぜならば、自分が何を観たいかわからないからです。
コンテンツを楽しむ際、自分がどれを選ぶべきかを決めるのは大変難しいです。難しいので、例えば書店では「平積み」のカタチでレコメンデーションしてくれます。これは意外に効く。表紙が見えて内容が伝わりやすいだけでなく、平積みしているということは、いま“旬”なのかな?と受け止めますね。
それから、“放送”というシステムも選びやすくしてくれる。あらかじめドラマの枠が各局にあって、月曜9時のフジテレビはやっぱり今が旬の役者が出る恋愛ドラマなんでしょ、と受け止めます。金曜10時のTBSはクオリティの高いサスペンスだよね、というイメージがある。そういうの、すごく大事で、だからゴールデンでもいきなりドラマの枠作ってもかんたんに成功しない。その曜日のその時間にどんなドラマを観るかのイメージを視聴者が持ってないからです。
そしてVODです。基本的に“並べる”ことしかしません。それではどれを観ればいいかわからない。そこで、新しい作品を中心に選ぶことになる。新しい作品をひとつひとつ詳細情報まで開いてみて、誰が出てるとか、監督は誰かとか、みんなの評価はどうかとか、チェックしていく。これが大変。すごく大変で時間がかかります。
なにしろ、そういうVODサービスは詳細情報がすごく薄いんです。huluなんか、主演の名前すら入ってない。サムネイル画像から「これってジョニー・デップかな?」と見分けることになる。
そこで私は、iPadを手元において、リモコンでひとつひとつの映画の情報を確認しながら、ネットでも検索してどんな映画かを調べています。これ、ほんとに疲れるの。
そんなことをAppleTVのレンタル作品とhuluの作品と行ったり来たりしながら迷ううちに30分くらいすぐ経っちゃいます。もういつの間にか時計は12時を回っている。なにやってんだろ、おれ。そんな気分になってしまう。
それだけ悩んで、よし!この映画にしよう!と決められたのは深夜1時近く。ところがその映画の上映時間を確認したら134分の大作だったりする。えー?!1時からそんな映画見たら3時過ぎちゃうじゃんか。そこでもう、諦めますね、たいがい。もういいよ!ってんで、iPadでゲームやったりしてふて寝しちゃう。あるいは、せっかくその気になったのだからと観はじめて、結局途中で寝ちゃったり。
とくにhuluはいま、新規獲得を増やそうとびっくりするような有名な作品を続々投入しています。それはいいです。正解。でも、もっと大事なのは、せっかく入ってくれた会員に継続して使ってもらうことでしょう。いまのままでは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズと『ジュラシック・パーク』シリーズを見たらあと何観たらいいかわかんなくなるでしょう。
選びやすくする。そのためにシステムを作りかえる。並行して、ウェブマガジン的なものをつくって選ぶ参考にしてもらう。そんな努力が必要です。これはhuluに限らず、VODで作品を選びやすくするツールというかサイトが必ず必要になりますよ。みなさん考えてみませんか。
てな感じで、これからしばらく、VODについて書き進めていきますからね。
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著者:境 治 (さかい・おさむ)
コピーライター/メディアコンサルタント
株式会社エム・データ顧問研究員
東京大学文学部卒。コピーライターとしてフリーランスで活動した後、
ロボット、ビデオプロモーションを経て、13年7月から再びフリーランス。
ブログ「クリエイティブビジネス論」はハフィントンポストなどに転載されている。