【VODはキャズムを越えたか】その5)Netflix急成長の一翼を担ったのは、メタデータだ!
前回、9月サービスインするらしいと書いたNetflixですが、2月5日に発表がありました。「9月」とまでは明確にしませんでしたが、「今年秋」のサービス開始だそうです。少なくとも年内にはスタートするのはまちがいないでしょう。
「Netflix (ネットフリックス) 今年秋に日本へサービス開始」(Netflix Press Releases)
宣伝会議のネットメディア「AdverTimes」に私が書いた記事も併せて読むとわかりやすいと思います。VOD市場全体の状況もこの機にまとめています。
「今年秋、上陸決定!Netflixは黒船なのか?VODの進路が日本のテレビの将来を左右するかもしれない」(「AdverTimes」拙著)
さて、NetflixはただのVOD事業者ではなく、いろいろ先進的な事柄が詰まっており語るべき点が多々あります。中でも注目すべきは、そのレコメンデーションシステムです。これについては、中谷和世氏の個人ブログに非常に興味深い記事があるのでまずはざっと読んでください。
「Netflix視聴の75%を支えるオススメ機能の秘密」(KAZUYO NAKATANI’S BLOG)
このブログの「VODはキャズムを越えたか」その1で私が書いた、自分が見るべき作品を教えてくれるVOD。これを、Netflixは実現しているのでした。このシステムは大まかに私がイメージしていたものと方向は同じですが、はるかに先を行くものです。すでにここまで来ているとはと、衝撃を受けました。
そしてこのシステムにこそ、私がエム・データのブログで何回にも渡ってVODをとりあげてきた意義があるのです。VODにはメタデータが必須になる。そうしないと活性化できない。メタデータを使い倒してユーザーに次々と“あなたが見たいはず”の作品を提示する。それによってサービス提供側と需要側の間に蜜月が訪れる。このサービスのおかげで退屈せずいつも新鮮な作品に出会えるなあ、と満足してもらえるはずなのです。
大袈裟に言うと、そこにはマスメディアへのアンチテーゼと言えるかもしれません。マスメディアの役割の大きな要素に“アジェンダ設定力”があります。「いまこの話題に注目すべきですよ」「いま見るならこの作品ですよ、旬ですよ」そんな風に、世界を飛び交う膨大な情報に優先順位を付けてくれる。それこそがマスメディアのマスメディアたるゆえんとなっていた。
でもこれからは、オススメ作品をあなたに提示するのは他ならぬあなたになっていく。Netflixのレコメンデーションは、Netflixが勧めてくれるわけではないのです。あなたの過去の視聴履歴と、膨大な量の作品のメタデータを照らし合わせ、“最適の解”を示してくれる。システムを作ったのはNetflixですが、オススメしてくるのは、あなたの潜在脳のようなものです。あるいは、あなたの脳とNetflixのメタデータがつながってひとつになるから最適の作品を見いだせる。なんだかデビッド・クローネンバーグの映画みたいな話になってきましたが、あなたの脳とデジタルアーカイブを結びつけるために、メタデータはある。映像ビジネスにおいて、今後、ますます重要になってくるでしょう。
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著者:境 治 (さかい・おさむ)
コピーライター/メディアコンサルタント
株式会社エム・データ顧問研究員
東京大学文学部卒。コピーライターとしてフリーランスで活動した後、
ロボット、ビデオプロモーションを経て、13年7月から再びフリーランス。
ブログ「クリエイティブビジネス論」はハフィントンポストなどに転載されている。