【VODはキャズムを越えたか】その8)テレビをアクセス解析できれば、いろんなことがわかり、いろいろ応用できるはず。
長らくVODについて書いてきましたが、もうしばらくおつきあいください。と言うか、VODは今年の最大トピックとして何度でも取り上げると思いますが。
さて前回は、テレビ受像機もWEBと同じようにアクセス解析できるかもしれないね。どのチャンネルを何時から何時まで見たかのデータとTVメタを突き合わせれば、そのテレビがある家庭はどんなタレントやどんな題材を好むか見えてくるね、ということを書きました。
前回の記事→【VODはキャズムを越えたか】その7)テレビ受像機もアクセス解析できるようになる?テレビメタの可能性。
記事の最後で「どんなことができそうか、次回でもう少し考えてみます」などと書いてしまったので、今回はそこを考えてみましょう。
まず容易に考えられるのは、VODサービスでの活用です。すでにNetflixはユーザーの行動解析をかなりやるらしいとの情報があります。これは彼ら自身のサービスの解析の話で、VODの利用者がどんなコンテンツを好むかを高度に解析すれば、他のコンテンツをレコメンするために役立つわけです。単純に出演する役者だけでなく、映画やドラマの内容を分類したりテキスト化することでかなり詳細な解析が可能になっているそうです。
同様のことは、Netflixのみならず、どのVOD事業者もトライできることのはずです。そしてその分析の題材として、テレビ視聴の傾向の分析も取りこめるでしょう。テレビ番組や映画をレコメンする際、テレビ番組の視聴傾向はかなりダイレクトに役立つデータになりそう。分析方法を追求すれば、Netflixのレコメンを超えるやり方だって開発できるはず。
また、VODとは別に、広告配信にも使える可能性があります。WEBの行動履歴が広告配信に役立つのなら、テレビ受像機の解析内容を広告配信に利用することは考え方としてはありです。
問題は、そこで広告を配信する端末は何か。
テレビ受像機の解析をするのだから、広告を配信するのもテレビ受像機、となるのが自然ですが、テレビ受像機で流す広告はテレビCMになってしまう。つまり放送される番組についている広告。これは電波で共通のものが配信されてくるので、実際にはいじれない。
でも例えば、CMのパートだけ差し替えることができれば、個別のテレビ受像機に別々の広告を配信することも可能。
実際、Gracenote社はテレビCMの差し替えの実験をアメリカではじめています。彼らはACR(Automatic Contents Rekognition)の技術を持っており、それを駆使すればいい。これが実用化すれば、このテレビの持ち主は料理番組を好むので、調理製品のCMを配信しよう、ということが可能になるわけです。テレビ局がこの仕組みを持てば、普通に大量の人に同じCMを配信する手法と、ターゲティングした広告配信を組合せて、広告収入を大きく伸ばせるのかもしれません。
それからもうひとつ、テレビ受像機の解析で、スマートフォンに配信する広告を効率化できる可能性もある。この考え方では、テレビ受像機とスマートフォンを何らかの技術でひも付ける必要があります。ひも付ける技術はあるのですが、長くなるのでここでは詳しく書きません。とにかく、テレビとスマートフォンをひも付けられれば、テレビの解析をスマートフォンでの広告配信に活かすことが可能になるのです。
テレビの解析。これは、ネットに結線されたテレビが増えるに従い、大きく浮上するに違いないテーマです。みなさん頭の端にちょっと、置いといてくださいね!
著者:境 治 (さかい・おさむ)
コピーライター/メディアコンサルタント
株式会社エム・データ顧問研究員
東京大学文学部卒。コピーライターとしてフリーランスで活動した後、
ロボット、ビデオプロモーションを経て、13年7月から再びフリーランス。
ブログ「クリエイティブビジネス論」はハフィントンポストなどに転載されている。