あなたが見たい”もの”をオススメします。但しそこにはメタデータが必要でしょう。
こんにちは。エム・データの上田です。
にわかに、VODやTV番組の見逃し無料配信サービスが話題になっています。
“黒船”といわれるNetflixが今秋に日本でサービスを開始すると発表されましたが、その発表以降、
・Huluの会員が100万人突破したとの発表(日本テレビのプレスリリース)。
・NTTドコモとエイベックス運営の「dビデオ」が「dtv」へと展開される発表(dtvのHP)。
・在京民放キー各局による見逃し無料配信の展開。
・さらにそのキー局がタッグを組んだ広告付き無料配信トライアルを共同運営
が発表されるなど、矢継ぎ早な展開となっています。
※詳しくは、エム・データの顧問研究員である、当ブログでもおなじみの境さんの記事を読んでいただければと思います。メタラボ・シリーズ連載「VODはキャズムを越えたか」「番組配信は次のステップへ」
VODにしろ、TV番組の見逃し無料配信にしろ、肝になるのはコンテンツの充実具合でしょうし、またそれと共にサービスの使いやすさ=UI上の利便性も気になるところでしょう。これらは既に各VOD事業者やTV局も周知の事実として、より魅力的なコンテンツの拡充や操作性の向上、UI上でのコンテンツの見つけやすさなど、それぞれが力を入れています。
Netflixでは、これら加えて、ユーザーに対してのオススメ機能(レコメンデーションエンジン)があり、それがかなり強力で精緻なものであるといわれています。また先日の「dtv」の発表でも、ユーザーへのレコメンデーションの機能を充実させるそうです。(【VODはキャズムを越えたか】その10)dビデオがdTVになり、データによるレコメンデーションがはじまる。)
確かにVODがコンテンツを充実させればさせるほど、その数は膨大になります。そこには、きっと自分の欲求にあった未知のコンテンツはあるはずだが、膨大な海から宝をサルベージするかの如く、どこに何が潜んでいるか分からない。ユーザーは、本来視聴に当てるべき時間を探索の時間に費やしてしまい、見つけられないストレスと欲求不満のストレスが発生しかねません。
その解決として、レコメンデーションをする”オススメ機能”となるわけですが、そこで重要になるのが、レコメンデーションエンジンのアルゴリズムの話もある一方、各コンテンツに対して、それがどのような作品なのかといった情報=メタデータが必須になります。
では、どのようなメタデータが必要であり有効なのか、また可能性があるのでしょうか?
VOD各サービスにおけるメタデータの可能性については、既に境さんが書かれていますが、【VODはキャズムを越えたか】その6)テレビ番組が検索されやすくなるために、メタデータが活躍する。/【VODはキャズムを越えたか】その7)テレビ受像機もアクセス解析できるようになる?TVメタデータの可能性。 ユーザーへのオススメ(=ユーザーの欲求に沿ったコンテンツを提案する)という観点で、メタデータ(=そのコンテンツの情報)を考えるのであれば、まず思いつくのが、コンテンツに関する事実情報の網羅性です。
ここでいう事実情報とは、コンテンツの「出演者」「制作者(原作者)」「あらすじ」といった情報になるでしょうか。この俳優が出ている、またこの監督や、原作者が同じコンテンツをレコメンドするというのは、分かりやすいオススメの肝です。さらにコンテンツの内容に踏み込んだ、その世界観、状況、コンテンツのジャンルといった情報も、それが持つ主題やテーマと同一性のあるコンテンツを網羅したいという欲求をかなえるためには必要です。ハリウッドではリメイク作品も多いので、リメイク元となった作品をレコメンドするための情報も必要かもしれません。
・出演者
・制作者
・原作者
・あらすじ
・(コンテンツが持つ)ジャンル
・(リメイク作品の場合)原作コンテンツ
また、コンテンツに関する周辺情報もユーザーにとって興味の対象となるかもしれません。ここでの周辺情報とは、コンテンツの背景となっている情報です。これはコンテンツ自体をオススメするのではないのですが、コンテンツの主題歌や使用楽曲の情報。特定の原作者が同じコンテンツの場合その原作者の著作物の情報。アニメの場合に多いかもしれませんが、関連グッズ(玩具等)の情報。またオススメとは少し離れますが、コンテンツの舞台が現実世界である場合の、その世界に関する知識や情報、またロケ地の情報なども面白いかもしれません。これらは、コンテンツが持つ副次的な情報、コンテンツから影響を受けたユーザーが持つ、枝葉的な興味を満たしてあげられるような情報です。
・主題歌/使用楽曲
・原作本
・関連グッズ(玩具等)
・(コンテンツの世界観に関する知識や情報)
・(コンテンツのロケ地)
では、これらでそのコンテンツが持つ情報が全て網羅されているかというと、実はそうではないと思います。当たり前ですが、TVドラマや映画は、単に出演者やあらすじという情報だけでは、その魅力を全て伝えきれません。映像作品である以上「構成」「演出」「演技」といった、過分にクリエイティブ要素が強いもの(ユーザーから見ると好み=価値化が明確に分かれるもの)の違いやポイントを明確にできるかどうか、実は重要なことのように感じます。
例えば、
「全編長回しのカメラワークで、編集点が少ない。出演者は長いセリフをワンカットで伝え、そこがこのコンテンツの魅力であり、またストーリー展開やそのストーリの裏に潜むテーマを伝えるのに非常に効果的な演出として生きている。」
という情報があるとして、これは単にあらすじを追えば用意できる情報ではありません。少し冗長でマニアックかもしれませんが、このような要素をコンテンツ選びのポイントとしているユーザーは少なからずいると思いますし、VODといった良い意味でコンテンツ至上主義であるサービスと、であるからこそ、そのサービスに期待しているユーザーへの、コンテンツの演出上の情報によるレコメンドが適えば、満足度が高まるのではないでしょうか。
(ここでは、あくまでその元となる情報=メタデータにフォーカスしていますが、これらの情報を単一として取り扱うのではなく複層化し且つユーザーの視聴動向まで追いかけたコンテンツレコメンドが重要になるわけで、それらの肝はきっとレコメンドエンジンのアルゴリズム等のテクノロジーの側面になるのでしょう。)
つらつらと書き連ねてきましたが、これらのメタデータ化、特にクリエイティブ要素までメタデータ化することは、メタ化する人間の主観的要素が過分に入り込む余地があり、またコンテンツの見方や捉え方などの専門知識やリテラシーも必要になるでしょう。しかしメタデータは各コンテンツを繋ぐハブとして機能するというテーマを持つ我々としては、ハブとして接続できる先(=その先にあるユーザーが持つ期待や欲求を叶えるために必要な要素)は、どんなポイントであっても繋がる、繋げる必要があると思いますし、本当にこのような要素も含めて、全てがメタデータ化でき、全てが機能として有効に働けば、まだ出現していない面白い世界(未来)が見えてくるかもしれません。
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著者:上田 雅司
株式会社エム・データ
執行役
データマネジメント部 シニアマネージャー