【番組配信は次のステップへ】その3)“その瞬間”の再生は、若い世代に求められている。
前回は、テレビ番組の放送後によく「昨日△△△が□□□って言ったってよ!」とネットで話題になるので、その場面に独自URLがつけられれば、またたくまに拡散してものすごい視聴数になりそうです、という話を書きました。話題になりそうな場面に独自URLなんてつけられるんでしょうかねえ、と書いたら、複数の方から「できるよ」とコメントをもらいまして。
もちろん筆者も「できるそうです」と言いたかったわけなんですが、すでに「できる」ことをあんまりわかってなかったので、エラそうに言えませんねえ。
ついでに言うと、独自URLをつけて広告枠も付けられるようです。
つまり、テレビ番組を放送後にネットで配信する仕組みは、広告商品になる、ということですね。これは大きい。いろんな意味で大きいと思います。
いま「若者のテレビ離れ」がよく言われますね。これに対し、言うほど若者はテレビ離れなんて起こしていない、彼らは今もテレビは好きだし、学生時代に離れてもまた戻るんだ、と反論する人もいます。でもわが家の大学生息子と高校生娘の暮らしを見ていると、テレビ離れを日々実感しますし、彼らがテレビに戻ることはもうないんだろうなあという気がします。
ただ、テレビは例えば視聴率が今後じわじわ下降したとしても、その影響力の強さはまだまだ残りつづけるのだとも思うのですね。
うちの息子はほんとうにテレビを見ないのですが、ある夜、私が終電近くに帰宅し、録画してあった月9『デート〜恋とはどんなものかしら〜』を見ていたんです。息子もリビングの同じソファに寝転がっているんですが、彼はテレビはまったく見ないでスマホでどうやらLINEをいじっている様子。ところが、ドラマの中でヒロインの子ども時代の回想シーンが出てきて、子役タレントが画面に出てくると、息子が突然「この子役が杏に似てるって話題になってるよね」と話しかけてきたのです。私はたいそうびっくりしました。お前テレビ見てないじゃん!『デート』見てないのになんでそんなこと知ってるの?
つまり彼にとってLINEで友達とおしゃべりする、その話題のひとつにテレビはでんと存在するのです。それは要するに、テレビはおしゃべりにちょうどいい話題の提供者だということ。そういうシステムはコミュニケーションに必要なのでしょうね。
彼らには、『デート』の各話をすべて視聴する必要はない。もちろんちゃんと見ている人も若者にいるでしょうけど、大半は見なくてもいい。でも、「子役が杏に似てるって話題になってるね」という会話はしたい。そんな人びとにはその子役のシーンさえ視聴できればいいわけです。
そのドラマを一所懸命作っている人たちからすると嫌かもしれませんが、断片的にでも番組に接してくれるだけでもうれしいじゃありませんか。そしてそこに広告の仕組みもつくれれば、新たな収益になる。
視聴率が10%を超えないとがっかりされる。そんな状況に長らく日本のテレビ業界はいたわけですが、アメリカでは大ヒットドラマ『LOST』だって視聴率は一桁台だったそうです。視聴率が高い水準でありつづけた日本のテレビ業界がちょっと奇妙だったのかもしれないし、そこに最適化しすぎていたのかもしれません。少し視点を変えれば、10%ないドラマでも十分に存在感を発揮し、ビジネスにもなるやり方はつくれるはずなのです。
そのひとつが、「その場所のみの再生」にあると思います。この話はまだまだ掘り下げていきましょう。
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著者:境 治 (さかい・おさむ)
コピーライター/メディアコンサルタント
株式会社エム・データ顧問研究員
東京大学文学部卒。コピーライターとしてフリーランスで活動した後、
ロボット、ビデオプロモーションを経て、13年7月から再びフリーランス。
ブログ「クリエイティブビジネス論」はハフィントンポストなどに転載されている。