【TV Rank】グーグルはTVに何を見ているのか?

ライフログラボ(ライフログ総合研究所、略称”L3”)、所長の梅田です。

このブログではクラウド型TVデータサービス「TV Rank(テレビランク)」から、様々なデータをご紹介しています。早速、最新のTV Rankを見てみましょう。

今回は、企業ランキングです。先週、2015年6月21日から27日までの一週間のTVCM企業ランキングには、5位にグーグルが入りました。この期間の関東地区でのグーグルの総CM放映秒数は7,560秒、総CM本数は275本、この期間に放映された全CMのうちグーグルの放送秒数シェアは1.48%となりました。CM商品ランキングにも3位にアンドロイド、7位にYouTubeがランクインしました。みなさんはグーグルのCM、ご覧になりましたか。

今年の上半期で元気のいいCM広告主は、ネット企業です。TVとネットがよく対比的に取り上げられますが、実はメジャーなネット企業はTVの集客力に頼っています。今やTVがなければネットビジネスのマネタイズはままならない、それが現実ではないかと思います。私もかつてコンサルで超大手ポータルサイトや超超大手ECサイトのアクイジション(集客のことです)を手がけましたが、数千万も会員を保有する彼らはネット内からの送客量だけでは充分な成長戦略を描けず、まだ利用していない人、まだ会員ではない人、まだ使っていない人、あまり頻繁に利用していない人をネットの外からいかに連れてくるか、いかに連れ戻すかが重要な課題となっています。デジタル上には精巧なWeb & CRM収穫装置が設置され、集客効率を上げ続けるべくミクロン単位のパラメーターが最新のAIまで動員して継続的にチューニングされ続けているのですが、TVCMを行った途端にネットの外からドカンドカンと暴力的なトラフィックが発生し、マーケティングダッシュボードに特異値のスパイクを立てまくります。ミクロン単位のコンバージョンレートに一喜一憂しているのが、あほらしくなるくらいです。実はTVのそんなパワーと凄さをダイレクトに感じているのが、ネット企業のマーケター達なのです。

グーグルは様々なデータを保有しています。日本ではYahoo!もグーグルの検索エンジンを使用していますので、人々がいつ、どのようなワードを検索したか、どのサイトを訪問したか、グーグルは多分その殆ど全てを知ることができる立場にいます。検索とWebの世界で、番組を含めたテレビの関心喚起力は、圧倒的です。TVデータと検索データ、Webデータのトレンドを対比させると、今この日本で瞬発的に話題を作り出す力、量的に圧倒的な高さの興味関心を引き出す力がTV以外には無いことがすぐにお分かりいただけるかと思います。事件・事故・流行・現象は、初動はネットや口コミ、地域のイベントであったとしても、それを全国区に老若男女に一瞬で知らしめることのできるメディアは、TV以外に無いのです。「今ネットで話題の〜」を、私たちはTVを通じて知るのです。

全国規模での検索データ、Webデータを日々眺めているグーグルは、そのトレンドに大きな影響を与えているのがTVであることを、実は誰よりも理解しているのではないでしょうか。AdSenseからはデジタル広告効果が、Google AnalyticsからはWebサイトのトラフィックが、アンドロイド端末からは位置情報や様々な行動データがグーグルの手元に集まります。それら日本の生活者の様々なライフログを俯瞰した時、グーグルの目にはどのような世界が映っているのでしょう。そこでのTVの影響と役割を、彼らはどのように理解しているのでしょう。TV局の営業収入同様、グーグルの売り上げの大半もネット広告、特に検索連動広告から成り立っています。その検索の行動の切欠を作ってくれるTVは、グーグルにとって到底無視できないもののはずです。思わず検索したくなるような新鮮な、面白い話題がテレビから無くなった時、今一番困るのはグーグルなのかもしれません。

ただ、このCM出稿主としてのネット企業とTVの、ある意味での“蜜月”は、その集客効果次第なのかもしれません。これまでのアクイジション効果を、TVはこれからもネット企業にもたらし続けることができるのか、一方ネット企業にとってはCM費用に見合う投資の合理性を今後も得続けることができるのか。たとえば、もし、ネット内だけで全国区の話題性の喚起や大規模集客が可能になったとしたら、彼らはその時もTV局にとっていいCM広告主でいてくれるのでしょうか?

今回グーグルは、2つのCMを流しています。モノサイクルや義足のスプリンター、奇抜なコスチュームの女性、ウイングスーツなどのユニークな映像が短いサイクルでカットインしながら“常識と違う、人と違う”と「違い」をメッセージするアンドロイドのCM。もう一本がユーチューバー“はじめしゃちょー”と“日本エレキテル連合”のYouTube。メッセージは「好きなことで生きていく」。

面白いのはYouTubeです。ここでは“はじめしゃちょー(hajime)”は知ってるよ、もう遅いよ、キャスティングが理解でき無いね、などなどと仰る方はこのCMのターゲットではありません。アーリアダプターはネットから情報を得る、ネットに情報を発信する層であり、TVはそんな彼らの胎動を横目で見ながらそのフォロー層に向けて拡散していくメディアです。ちょうど大手ネット企業がご新規さんをTVで集客したいように。

さらに面白いのが、このYouTubeのCMはYouTubeを見てくださいと言っているのではなく、あなたも発信しませんか、と、発信者側のスタンスでコミュニケーションしていることです。
 

 

TV Rankの企業別パフォーマンス分析でこのYouTubeのCMを見ると(上図)、金曜と土曜の日中に露出が集中しているのがわかります。先ほど、グーグル先生は色々なデータを見て、きっとたくさんのことを知っているはずだ、と言いました。本当にそうだとすれば、この露出パターンには何か深い戦略があるのかもしれません。(あるいは、たまたま偶然かもしれませんが 笑)

YouTubeはすでに多くの人が利用しています。CMを少し流したからといって、YouTubeのトラフィックがガツンと上がるかというと、多分今はそんな段階ではないですよね。でも、私たちは、それこそネットでの初動的な噂も含めて、どうやらネット動画の投稿者は結構儲かっているらしいぞ、みたいな話を最近耳にするようになってきました。でも、身近にネット動画で儲かったという人は、あまり聞きません。(いや、いっぱいいるんだけどと仰るあなたはアーリーアダプターです)

そんなときに、なんか見た目チャラそうな(失礼!)はじめしゃちょーが出てきて、なんか綱引きしたり、一輪車に乗ったりして、どー見ても遊んでるだけなんだけどでもグーグルのCMに出るくらいだから結構ファンとかいる有名人なんだよねと、金曜土曜の昼間っからTVを見ていた潜在ユーチューバーの“なんか俺このままでいいのかなぁ”心をくすぐるったと思ったら、「好きなことで生きていく」。ああ、これだなぁ、と。まぁ、そういうことなのかもしれません。月曜や火曜でなく金曜って、日曜でなく土曜って。きっと、週初めや日曜の昼間に在宅TV視聴ではなく、金曜や土曜という、もしかすると次がある日の自宅待機状態に、未来のユーチューバーの可能性が潜んでいるのかもしれません。

コンテンツ作ろうよ、君も発信者になろうよ、君も未来のTV局になれるよ。。。。
TVのパワーとは、スイッチを入れるだけで誰にでも見られる簡単な仕組みとして多くの人に受け入れられてきたリーチ力であり、そのリーチを担保するコンテンツ力ではないかと思います。そんなTVに取って代わるかもしれないアクセスの容易性は、スマートフォンが実現しました(これ、グーグルというよりも、私の在籍したアップルの功績です 笑)。あと欲しいのはコンテンツ力です。グーグルやアップルは、自分たちでコンテンツを作りません。そこが、NetFlixやHuluとの違いです。グーグル的には、“はじめしゃちょー”みたいな人がどんどん出てきて、YouTubeが今のTVに代わる存在になってくれれば 言うことがないわけです。
金曜の昼間にボーッとテレビを見てる人が未来のTVを作る、そんな時代がもしかしたらそのうち来るのかもしれませんね。

このブログでは、これからもTV Rankからの最新情報をお届けしてまいります。どうぞ、お楽しみに!


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