【元 読売テレビ・西垣内さん特別寄稿2】テレビCM「19万秒」を分析!スポンサー各社の狙いとは【トイレタリー業界】
エム・データがリリースしています「TV Rank」シリーズから得られた知見を元に、元・讀賣テレビ放送株式会社編成局マーケティング部で10月より大阪府四條畷市のマーケティング監に就任されます西垣内さんからの特別寄稿の第2回目。今回は「TV Rank CM編」から得られた気づきをまとめていただきました。
エム・データ社の「TVRank CM編」でもっともテレビCMの量を把握できる機能のひとつ、「CM企業ランキング」機能で8月のコマーシャル秒数を企業ごとに比較すると、全企業中1位・2位・4位・7位・8位に同業界が出てくる。それはトイレタリー業界であり、上位5社が関東地区で放映したCMはのべ19万3千秒に上る。長らくテレビCMを重用してきているこの業界で、各社がどのような狙いを持っているかをCMが放送された秒数・量・時間帯・曜日・テレビ局などの視点から比較してみたい。
今回は、「TVRankCM編」である1社のCM動向を多角的に把握できる「CMパフォーマンス」機能でわかることをまとめてみたい。この機能でわかることは、1本あたりの素材秒数(15秒~120秒)別放映本数、曜日別放映秒数、時間帯別放映秒数、そしてどのチャンネルで多く流れたかが大まかにわかる放送局シェアの4要素。
【短尺?長尺?素材秒数に見る違い】
コマーシャル1回につきどの程度メッセージを込めるかの考え方を、素材秒数の割合から垣間見ることができる。8月に最もCMを放映した「P&G」は、上位5社の中で最も15秒素材の割合が少なく80%を下回った。逆に30秒素材は2割を超えて5社の中で一番多かった。これは30秒以上を基本とするタイムCM(番組CM)で30秒素材を多用した結果他社よりも多い可能性と、P&G以外はタイムCMにおいても15秒素材を2回使うパターンが多いのか、などいくつか仮説を見出すことができる。エム・データ社ではこのたびTVメタデータにおいてCMの「タイム・スポット」を区分したデータ提供を開始し、今後さらに分析することが可能になる。
【火曜から木曜に集中?曜日別傾向】
曜日ごとにCM放映が多かったところを見ると、「コーワ/興和」「小林製薬」以外の3社は火曜・水曜・木曜がベスト3となり、小林製薬も金曜日が3番目に入っていた。各社平日を中心に、テレビを使って視聴者への浸透を図っていることがわかる。一方でコーワは、日曜における割合が他4社の2倍前後高く、違った狙いを持ったことが明らかとなった。
【ターゲットが鮮明に?時間帯別傾向】
テレビの視聴動向は在宅率と近い傾向があり、時間帯によって属性の違った視聴者にアプローチをかけることも可能になる。どの時間帯にCMを流し、つまりどのターゲットに認知やブランディングを高めていくかについて、各社で共通点も違いも見られた。特に多く放映されている時間帯を比較すると、各社ほぼ共通して、朝・昼・プライムタイム(19~22時台)の3つの時間帯を重視していることがわかった。朝は8時台を中心に7時台から9時台に山が見られ、昼では11時台から13時台にも多く放映されている。朝7時台までは学生やサラリーマン、高齢者も多くテレビに触れており全世代にメッセージを送れるが、それ以降の時間帯は主婦・高齢者中心となる。また、HUT(総世帯視聴率=テレビがONになっている世帯割合)が低い傾向にある午前11時台での放映が多いP&Gや小林製薬は特にターゲティングを強めていると推測できる。
プライムタイムでも放映が多かった時間帯としては、各社共通して21時台・22時台となった。これについても、主婦層が家事を落ち着けて一息つく時間にあわせたものとも推測でき、たくさんの視聴者がいる時間においても女性とくに主婦に焦点を当てていることがわかる。今回とりあげた上位5社の中で異彩を放ったのは「コーワ」で、1日の中でもっともHUTの低い深夜・早朝に集中して放映している。他社がそれほど選択しない時間帯に出稿することでコストを下げる狙いもあると見られるが、この時間帯の視聴者に同じメッセージを数回当てることで認知度を高める効果も期待できそうだ。
【視聴率とイコールならず?テレビ局シェア】
視聴率では、日本テレビがこの8月まで45か月連続「三冠王」と全時間帯で強さを見せているが、今回取り上げた5社の中で、最も日テレでCMが放映されたのは「小林製薬」のみで、必ずしも視聴率ともリンクしていない可能性が見られた。「P&G」「小林製薬」は共通して日テレ・TBS・フジテレビを中心に放映している。「花王」はフジが非常に多く、2番目に多い日テレと2局で8割に迫る。「ライオン」はフジ・TBSでの放映が多く、「コーワ」は唯一テレビ朝日での放映がいちばん多い、と各社様々となった。これだけの違いが出るのも、視聴率だけでなく局や番組とスポンサー企業の関係に歴史があり、今後も変動していくと思われる。
今回はCM放映の多いトイレタリー業界における戦略の微妙な違いを、「TVRank CM編」のCMパフォーマンス機能を使うことで把握することができる。同業他社がどのような取り組みをしているのかを、定期的にチェックするには最適な機能と言える。また他の業界についても、同じように今後比較してみたい。
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著者:西垣内 渉(Wataru Nishigauchi)
一般社団法人未来のテレビを考える会幹事
元讀賣テレビ放送株式会社編成局マーケティング部
東京大学在学中にインターネットリサーチ会社に従事、2005年に読売テレビ入社。2008年にマーケティング配属となり、視聴率の分析をはじめ各種定量調査・定性調査を用いて視聴者像に迫った。2017年10月から大阪府四条畷市マーケティング監に就任。同志社大学・立命館大学・関西学院大学などで講演実績あり。