【元 読売テレビ・西垣内さん特別寄稿3】テレビCMに「四季」はあるのか?業界別2017年シーズン傾向を追う
エム・データがリリースしています「TV Rank」シリーズから得られた知見を元に、元・讀賣テレビ放送株式会社編成局マーケティング部で10月より大阪府四條畷市のマーケティング監に就任されます西垣内さんからの特別寄稿の最終回。今回も「TV Rank CM編」から得られた気づきをまとめていただきました。
業界によって、テレビCM出稿量には季節変化が見られるのだろうか?テレビ営業においても、繁忙期・閑散期はあると言われているが、実際の放映秒数からその言い伝えは本当なのか、エム・データ社の「TV Rank CM編」を用いて、業界別に検証を試みた。また、今年の傾向と昨年とを比較し、その変化や今後の傾向を占ってみたい。
【どの業界のコマーシャルが多い?】
まず、今年どの業界のCM放映が多かったのかを調べるため、「CM業界別ランク」機能を用いて、今年1月1日から9月10日の総秒数を比較した。すると、「パソコン・AV」業界の「Webサイト」がもっとも多く160万6993秒も放映されていた。次いで、「番組宣伝」つまり各局の番組PRスポットが113万秒あまり、続いて「通信」業界の「携帯電話」が64万秒あまりとなった。「通信販売」が4番目に多く、ここまでが50万秒を超えた。自社稿である番組宣伝については別途分析することにして、Webサイト・携帯電話・通販の3業界について触れてみたい。
この3業界の昨年同時期からの変化だが、Webサイトは本数が500本弱減ったのに対して、秒数は3000秒あまり増加していた。携帯電話は本数にして2000本強、秒数では3万秒強減っていた。通販もWebサイトと似た傾向で本数は2000本ダウンも、秒数はマイナス323秒と微減となった。携帯電話は全体として減少傾向にあると言え、Webサイトや通販は1本当たりのCM秒数が長くなる「長尺化」がみられた。なお、これらを含め上位6業界は昨年と今年で順位は変わらなかった。
【Webサイト業界の季節変化は】
次に、業界別の「四季」傾向はあるのかについて考える。まず9か月あまりで160万秒以上もCMが放映されている「Webサイト」だが、週ごとのCM秒数推移を見ればお盆期間が入る8月14日週だけで合計10万秒台を記録し、今年いちばん多かった。内訳としては、今年いちばんCM秒数の多い「トリバゴ」を上回って「スクウェア・エニックス」「Cygames」「アマゾンジャパン」が今年最多クラスの放映となっていた。この週を中心に、今年は8月にもっともWebサイト関連のCMを見かけられたことになる。昨年もこの傾向は見られ、8月8日週と15日週が年間で3番目・4番目にCM秒数が多かった。8月以外では、ゴールデンウィーク期間が今年も昨年も多く、昨年は年末12月にもピークがあったため、きわめて日本人のカレンダーに連動した形でCMが多く流れていると言える。
業界の中でCM秒数トップとなっているトリバゴは今年4月以降、週ごとに大きな変化はなくコンスタントに放映を続けている。2番手のスクエニは7月以降に一気に秒数を増している。3番目に多いCygamesは業界全体の動きに近い変化を見せており、年初・GW・お盆の放映量が他の期間より大きい。上位各社においても、考え方はさまざまとなっている。
【3月までが勝負!携帯電話業界】
全業界の中で3番目に多かった「通信・携帯電話」だが、Webサイトとはまた違う傾向が見られた。もっとも総秒数が多かったのは3月13日週で、4万5千秒を超えて今年全体の1割に迫る勢いだった。その前2週にあたる2月27日週と3月6日週も3万5千秒以上と多く、4月の新生活を見据えて2月・3月に集中投下していることがわかる。この傾向は「ソフトバンク」をはじめ、「イーモバイル/ワイモバイル」「ケイオプティコム」といった上位2強をうかがうところやMVNO勢で顕著に見られ、逆に「エーユー/KDDI」や「NTTドコモ」は2月・3月が多いものの、年間を通じてコンスタントに放映している。
昨年に比べてはどうか、ということだが、昨年も2月22日週と翌29日週がのべ3万秒以上となり年間を通じてもっとも多い時期だった。ただしその後5月以降には大きなヤマがあまり見られず、かつピーク時との差も小さかった。昨年に比べて減少した「3万秒」は、今年度に入ってからのプラニングの変化に表れている可能性が示唆される。
【初夏からが勝負?通信販売業界】
CM放映秒数が3番目に多かった通販業界は、今年1月から4月までと5月以降でがらっと傾向が変わった。5月15日週に今年初めて2万秒を上回り、以降も2万前後で推移する形となっている。この推移に近い動きとなったのは、今年この業界でいちばんCM秒数が多い「世田谷自然食品」と3番目の「サントリー/サントリーウエルネス」で、いずれもゴールデンウィーク明けの5月8日週から露出が増加した。
昨年の推移を見れば、今年と同じように5月・6月や8月のお盆明けに出稿量のヤマができていた。ただ昨年は2月・3月でも多く放映されていたなど、微妙に傾向が異なるシーズンも見られた。昨年は9月以降の露出が控えめとなっていたが、今年はその動きに近いものとなるか推移を見ていきたい。
今回使用した「TV Rank CM編」の「業界別サマリー」は、週ごとのCM秒数以外にも、期間内の「会社別CM秒数シェア」、そしてどの曜日・時間に放映が多かったかを俯瞰できる「CM放映パターン」も知ることができる。同業他社分析をはじめ、他業界ではどのようなテレビCM戦略をとられているのか、大いに参考にできそうだ。
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著者:西垣内 渉(Wataru Nishigauchi)
一般社団法人未来のテレビを考える会幹事
元讀賣テレビ放送株式会社編成局マーケティング部
東京大学在学中にインターネットリサーチ会社に従事、2005年に読売テレビ入社。2008年にマーケティング配属となり、視聴率の分析をはじめ各種定量調査・定性調査を用いて視聴者像に迫った。2017年10月から大阪府四条畷市マーケティング監に就任。同志社大学・立命館大学・関西学院大学などで講演実績あり。