【動画元年2014】その2)無料配信は、テレビのビジネスモデルの再構築、かもしれない。
今月からはじまったメタラボ。前回は動画配信2014と題して書きました。今回は、その続きです。
動画元年について書くにあたって、ちょうどいいイベントが先日ありました。11月19〜21日に幕張メッセで開催されたInterBEEです。
InterBEEのBEEは何の略かというと、Broadcast Equipment Exhibitionです。放送機器展示会、ですね。だから、カメラとか編集機とか、照明とかマニアックな機材が展示されます。
今年は、その中にInterBEE Connectedという特別なコーナーができたんですね。Connectedは通信をイメージさせます。放送と通信の融合が言われる中、その手の展示もやろうよ、ということです。もっと言えばいろんなデバイスや新たなビジネスとも“つながる”という意味だそうです。
Connectedのコーナーにはそんな趣旨に応じて、VODのシステム事業者やインタラクティブな番組づくりの支援などこれまでにない企業が出展していました。並行して、様々なセミナーも行われて講演やパネルディスカッションが開催されました。
その中で「キー局のネット配信」と題したパネルディスカッションが行われたのです。私はそのレポートを書くために会場に行きました。他のセミナーは正直、空席が目立っていたのでのんきに遅れていったら大変なことになっていました。200名分はある椅子席が満席になり、立ち見であふれ返っていたのです。もうびっくり。このセッションだけ異常に混み合っていました。
番組のネット配信、注目なんですね!私が想像していた以上に、業界ではホットになっていたんです。
このセミナーの内容については、いずれ機会があればふれたいと思いますが、各局の方々が熱気あふれるトークを展開したのは、ネット配信に並々ならぬ意欲を傾けていくという表れなのでしょう。中でもいま、放送した番組を無料で配信する、“見逃し無料配信”がホットな領域になっています。日テレさんが今年からスタートし、TBSさんもはじめたばかりですが、いずれ各局がそれぞれなのか、共通でなのか、足並みを揃えるのではないでしょうか。
いままでも有料課金での番組配信は行われてきたし、事業としても成功しているようです。でも、この無料配信が当たり前になると、テレビのビジネスモデルそのものが再構築されるのではないかと思います。無料配信は、有料課金とはマネタイズの方法が違うわけですが、それだけでなく、もっと大きな違いがある気がします。
有料課金は、テレビが好き、番組が好きな人のためのものです。個別の番組に何百円か払うというのは、今やってるドラマの第4話を見たら面白かったから第1話から見直そうとか、好きな役者が去年出演したドラマを観てなかったから観ようとか、あるいは十年前にハマったあのドラマをもう一度観たくなったとか、そういう動機です。その番組のことをよく知らないのに、わざわざ探し当ててお金払って観たりはなかなかしないでしょう。
でも無料配信は、それが常識化するとですが、まったく意味が違ってきます。いま面白いの何かある?そんな気持ちで接するようになるでしょう。そしてもっと言えば、なんか昨日観なかったけどあのバラエティでタレント○○が面白かったらしいね、なんて噂を聞きつけたらふらりと観ることができたりもします。
この「ふらりと観ることができる」ようになることは重要です。それはテレビという存在を大きく変えます。テレビはこれまで、時間通りにテレビ受像機で見るものでした。人びとの認識もそうですし、ビジネスモデル上もそうだった。これが、ふと思った時にどのデバイスでも観れてしまうもの、になるのです。全然違います。そして、その方がいまのメディアの接し方に乗っかれます。どこでも観れて、ひょいと噂になったらどのデバイスでも観ることができる。今の若い層からすると「だったら観るかもね」の俎上にのるでしょう。
それは、前回私が示したこの図の構造を作ることです。
ネットにも居場所を作ればいい、と前回書いたわけですが、有料課金はその答えとは言いがたかった。無料配信によってこそ、上の図の構造は作れます。そして、ビジネスモデルが大きく変わり、収益機会も新たに増大するはずです。
動画配信の世界は、けっこう奥が深い。語ることはたくさんあります。ということで、次回もお楽しみに・・・。
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著者:境 治 (さかい・おさむ)
コピーライター/メディアコンサルタント
株式会社エム・データ顧問研究員
東京大学文学部卒。コピーライターとしてフリーランスで活動した後、
ロボット、ビデオプロモーションを経て、13年7月から再びフリーランス。
ブログ「クリエイティブビジネス論」はハフィントンポストなどに転載されている。