【VODはキャズムを越えたか】その2)視聴促進のポイントは、コンテキストをもたらせるかどうか
前回の記事では、VODで自分が見たい作品を選ぶのは大変だ、ということを書きました。
これについて深く考えていくと、“コンテキスト”という概念にぶちあたります。
Contextとは「文脈」と訳されることが多いですが、いろんな分野でいろんな意味に使われています。ここではマーケティングや社会評論的な使い方で受け止めて話しています。とくにコンテンツについて語る際、そのコンテンツの「状況や関係」のような意味で使われます。
そしてコンテンツの価値や意義はコンテキストによって変わってきたりします。例えば「仮面ライダー」というコンテンツは、昭和40年代から見てきた人と、現在子どもでいま放送されている番組から見始めるのとでは“コンテキスト”がまるでちがっているわけです。
“コンテキスト”というキーワードは、前回書いた「VODで何を観ればいいかわからなくなる問題」を解決する糸口になりそうです。VODを使うユーザーにとってのコンテキストを提示すればいい、ということになるでしょう。
例えば、ビデオレンタル華やかりし十年ほど前あたりでは、テレビで放送された映画の在庫がなくなる、ということがよく起こっていました。これ、反対のことが起こりそうなのに不思議です。テレビで放送されるなら無料で見ることができるのに、実際にはお金を払ってレンタルされる。何か映画を借りようかな、どれにしようかな、という時に「昨日テレビでやってたけど見なかったなあ、これにしよう」などと無性に見たくなってしまう。そういう現象は個人的にも身に覚えがあります。
テレビで映画が放送されるのは、「これ、どお?」「あれ面白いよ」テレビ局がそう言っているようなものなのです。そして、そう言われるとなぜか見たくなる。
あるいは、トム・クルーズ主演の最新作が劇場で公開される時期に、彼のこれまでの主演作を並べられると「あ、」とつい見たくなる。クリスマス前にこの季節にふさわしい作品を並べられると借りてしまう。そういう“タイムリー感”もコンテキストになりますね。
こういう「さて何を借りようか、何か借りたいのだが」という気持ちになっているレンタルショップの店頭では「はい、これ」とちょっとした際立たせ方をすると選びたくなります。何でもいいのです。何か借りよう、と思ってきてるのですから。“見る理由”があれば、「よし、そうしよう」となります。
「ちょっと話題になってる」という情報によっても見たくなったりします。「最近、20代にとって70年代の日本のアニメが注目されてるんだって」とか言われたら「ああ、あれとか、それとか?」と思い浮かべて急に見たくなったり。
そしていちばん効きそうなのが「友だちが面白いと言っていた」という情報。そんなに立派な批評じゃなくても、「○○○を見たらすっげえ面白かった!」というような投稿を見ると「あいつが“すっげえ”とまで言うのだから面白いんだろうな」と見たくなる。劇場公開中の映画については、実際にFacebookで誰かが見ていいと言ってたので見に行ったことは私にもよくあります。
その意味では、VOD作品はあまりシェアされてません。VODのサイトがあまりソーシャルに対応できてないせいではないでしょうか。私はAppleTVやhuluで毎週のように映画を観ていますが、それについてFacebookの投稿はあまりしていません。やりにくいからです。シェアしやすくすればいいのに、と思ってしまいます。
さて、こうしたコンテキストづくりに、メタデータは欠かせない存在になるでしょう。
VODの発展にはメタデータが必要になっていくはずです。
次回はそのあたりの話を書きましょう。
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著者:境 治 (さかい・おさむ)
コピーライター/メディアコンサルタント
株式会社エム・データ顧問研究員
東京大学文学部卒。コピーライターとしてフリーランスで活動した後、
ロボット、ビデオプロモーションを経て、13年7月から再びフリーランス。
ブログ「クリエイティブビジネス論」はハフィントンポストなどに転載されている。