【Talent Rank】視聴率は田中圭のヒットの法則を語れるか?
2018年の年間ランキングが色々と発表されている。
エンタメ界からは当Talent Rankのランキングでも以前ご紹介した安室奈美恵が今年のヒット商品に選ばれるなど、タレントの活躍も目立った年だった。
安室は一時代を築いた大スターの引退が人々に感動を与えた例だが、一方でこれからの時代を築くかもしれないニュースターの登場も数多くあった。その一人が田中圭だろう。彼の出演した「おっさんずラブ」は、ネットを中心に大きな話題となった。
今回はエム・データが提供するタレント全量データサービス「Talent Rank」を使って田中圭のブレークの軌跡を見ていこう。
図1はTalent Rankで見る2017-18の田中圭のトレンドだ。
最上段はタレントスコア、そのタレントのテレビ番組露出量、テレビCM露出量、Twitter量を週ごとに偏差値化したものだ。タレント偏差値といってもいい。
二段目以降はこのタレント偏差値算出の元となっている番組露出量、CM露出量、Twitter量の実数値の週ごとのトレンドだ。
図1を見ると、田中圭のテレビ番組露出量、テレビCM露出量は2017年と2018年ではそれほど大きな変化はない。田中圭がブレークしたのはテレビ番組露出量でもテレビCM露出量でもないと言うわけだ。このグラフで明らかに2017年と2018年で異なっているのがTwitter量だ。
視聴率的には振るわなかったというのが枕詞のように語られるおっさんずラブだが、その放映は2016年12月31日に単発ドラマとして、そして2018年4月21日から6月2日まで連続ドラマとして行われている。
図2はTalent Rankで見る2018年4月から6月までの田中圭のテレビ番組出演一覧だ。
この期間に田中が連続して出演していたのはこのおっさんずラブのみ。またこの連続ドラマおっさんずラブ放映開始の前週、4月9日週には2016年大晦日の単発ドラマが再放送されている。この2018年4月から6月は田中にとってはおっさんずラブのクールであったわけだ。
そして先の田中のTwitterが盛り上がりを見せるのがまさにこのおっさんずラブ連続ドラマが放映開始された4月16日週からなのだ。
視聴率的には振るわなかったというのが枕詞のように語られるおっさんずラブだが、最初からネットでは大評判だったわけだ。視聴率ばかりに気をとられるあまり、一桁だったとか、爆死だったとか言われることがよくあるが、もっと多面的に見ていくと視聴率以外の番組成果もたくさんあるわけで、この辺りを考慮しておっさんずラブに評価が与えられるのは正しいことだと思う。出演者や製作者、そして何より提供していただいたスポンサーにとっては視聴率以外の成果も誇らしく提示されるべきだろう。
さてこのTwitter量、なんとピークは5月28日週で、まさにこの週は連続ドラマおっさんずラブの最終回放映週である。初回からTwitterで盛り上がり放映最終週にピークを迎えたのがTwitterのトレンドだ。連続ドラマの放映がライブで盛り上がり、放映以降も田中圭のバズ量は年間を通して高止まりとなるが、最も盛り上がったのは連続ドラマの放映期間中だったのである。バズ的には連続ドラマおっさんずラブのライブ放送は大成功だったわけだ。
ネット広告の世界ではアトリビューションという指標があって、それ以降の広告効果も元々のきっかけを作った先行広告のものである、というその後の数値を全部地引き網のように先行者が”横取り”していってしまう”便利な”概念があるのだが、テレビ番組にもこの辺のワイルドな考え方があってもいいんじゃないかなと思う。おっさんずラブ放映開始以降の田中圭のTwitter量のグラフは、まさにこの番組のアトリビューション効果だ。
ネット広告の世界ではテレビで言うとことの視聴率はインプレッション、つまり媒体接触、いわゆるリーチに過ぎない。テレビから広告費のシフトが起きていると言われているネット広告ではすでにインプレッションからアクション、つまり広告をクリックしたのか、さらにコンバージョン、つまりクリックのあと応募や制約や購買をしたのか、に指標が移っている。どれだけ人を動かすことができたのかが広告主にとって重要であると言う考え方だ。これがデータ主義のマーケティングであり、多くの広告主に受け入れられている概念である。
その意味でポストエフェクトで語ることのできるおっさんずラブは、今の時代にあった素晴らしいコンテンツであったと言える。
図1からはさらにいくつか気付きが得られるのだが一点だけご紹介すると、グラフの二段目、テレビ番組露出量トレンドのところを見ていただきたい。
ここのオレンジの折れ線は田中圭の本人番組出演では無く、田中圭が話題になったテレビ番組のコーナー数を表している。田中圭の番組出演分数は2017年と2018年では大きく変わらないが、このオレンジの折れ線、つまり田中圭の話題が番組で取り上げられた回数は先のおっさんずラブ放映以降急増している。テレビでよく見る俳優さんに過ぎなかった田中圭が、おっさんずラブ放映以降はその人物の話題そのものがトピックとして番組で取り上げられる取材対象、流行の対象になっていくのである。これがヒットだ。特にこの話題回数が盛り上がるのは9月10日週以降、ネットでの盛り上がりピークである5月28日週から15週後、じつに3ヶ月以上も先である。おっさんずラブの放映期間中と、その後も冷めないネットでの評判を見てテレビ番組は”話題”と判断し、番組で取り上げるのである。
これは流行現象の定番だ。
今で言えばまさに映画「ボヘミアン・ラプソディ」がそれだ。上映開始後これまでに250万人以上が劇場に足を運びリピーターも続出、今尚拡大を見せる流行現象、と各局ワイドショーから報道番組までが特集を組む、これがまた流行に拍車をかけてまだ見ていない人たちの足を劇場に向かわせるのだ。流行のラストワンマイルだ。
アメリカの大統領選で選挙戦終盤に大量のスポット広告を投下するのはなぜか、それはまだ投票意向を固めていない有権者に最後の態度決定を促すためだ。そこで生きてくるのが大量リーチなのだ。田中圭の番組での話題集中は、まさにこの田中圭のブレークした人気をさらに拡散し固める段階にあたる。田中圭のタレント偏差値(タレントスコア)は、この番組での話題拡散期である10月8日に83.1を記録しピークを迎える。偏差値83といえば東大文科一類並みである。
いかがだろう、Talent Rankを見ることで様々なタレントのブレークの軌跡を確認することが可能になる。そして、初動や拡散期、定着期などのブレークの各ファイズごとに次の変化への予兆をつかむことでネクストブレイカーの発見などに応用することが可能になる。グラフの最下段にあるT Ratioはメディア量あたりのバズ喚起度を表しており、これはブレークの先行指標として活用することができる。
このあたりのお話は、また項を改めてご紹介しよう。
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著者:梅田仁 | Jin Umeda
ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)所長
iPhone、iPod、iTunes、Mac、Apple TV、Apple Storeのシニア・マーケティング・プロデューサーとして、Apple(AAPL)を時価総額世界一のブランドに育て上げることに貢献。iTunesで取り扱う内外のエンターテインメント・コンテンツ、アーチストの需要トレンド、視聴者の嗜好パターン分析を通してプラットフォームメディアビジネスにも精通。2013年、ライフログ総合研究所を設立、TV Rank、Talent Rankサービスを展開中。著書:「売れない時代に売る新常識」出版文化社、2011