【Talent Rank】2018上半期タレントランキング・バズ持ちタレントがスーパースターになる条件
テレビにはあまり出ていないがネットでは評判のタレントたちがいる。
以前の記事(最強タレントを探せ!タレントポジショニングで見る旬なタレント、伸びるタレント)で、エム・データ提供のタレント全量データサービス「Talent Rank」では、テレビ露出量が全タレントの上位20%以内で、同時にTwitter数も上位20%以内であるタレントを「スーパースター」と呼ぶとご紹介した。このスーパースターの条件を満たすのはタレント全体の僅か4%しかいない。文字通りタレントの中でも飛び抜けたスパーな存在がこのスーパースターだ。
スーパースターに続くグループが、テレビ露出量はスーパースターと同じ全タレントの上位20%以内だが、Twitter数が上位20%以内には入らないテレビ露出先行型のタレントグループ、これを「Talent Rank」では「ブロードキャスター」と呼んでいる。そして、ブロードキャスターとは逆のパターン、Twitter数はスーパースターと同じ上位20%以内に入るが、テレビ露出量が上位20%以内には入らないグループ、このテレビよりもネット(Twitter)先行型のグループが今回のテーマ、テレビにはあまり出ていないがネットでは評判のタレントたち「バズメイカー」だ。
早速、「Talent Rank」のサマリー編「タレント四季報」を使って2018年上半期(1-6月)の「バズメイカー」ランキングを見ていこう。
■2018年上半期のバズメイカーNo.1は、防弾少年団(BTS)
上図は2018年1-6月中のテレビ番組露出(出演露出+話題露出)が100分(タレント上位20%)に満たないがTwitter数の多いネット先行型タレント「バズメイカー」のランキングだ。順位はTwitter前期比順、つまり前期(2017年下半期7-12月)からのTwitterの増加数が多かったタレント順となっている。テレビにはあまり出ていないか全く出ていないが、Twitterでは評判になったタレントたちのランキングだ。ランキングの中には、テレビに全く出ていないタレントたちもいる。お望みなら「Talent Rank」を使えば、テレビに全く出ていないタレントだけのランキングも作成可能だ。
さて、テレビ露出が100分に満たないバズメイカーたちのランキング、第一位は防弾少年団(BTS)、韓国の男性グループだ。Twitter数、Twitter前期比とも第1位で、BTSのTwitter数は以前の記事でご紹介したタレント最上位グループ「スーパースター」の上半期ランキング第1位であった羽生結弦のTwitter数をも上回っている。Twitter数では全タレント中上半期ナンバーワンがこのBTSだ。上半期最もツイートされたタレントである。
バズメイカー第2位はTwitter前期比+20,394件の摂津正。ソフトバンクホークスのピッチャーだ。なぜ 摂津投手が2018年上半期バズメイカーNo.2なのか? 少年野球の大会で女性アイドルが始球式をした際、球児たちに取り囲まれて問題になった事件があったのをご記憶だろうか? この件はネットでも話題になり、そこから派生した話題の一つが、誰がマウンドで始球式をしようと全く動じない摂津正、という話題だった。摂津投手が先発だった時のソフトバンクホークスの始球式の写真をいくつか並べた話題で、様々な女性タレントやアイドルが始球式をしているマウンドの後ろで先発の摂津投手がそれが終わるのをじっと待っているのだが、このときの彼の立ち姿と表情が、どの写真をとっても全く同じなのである。時にはセクシーなアイドルがきわどい衣装でボールを明後日の方向に投げようとも、表情一つ変えず微動だにしない仁王立の摂津正、少年野球球児たちよ、この先輩野球人の凛々しい佇まいを見よ、といった話題がTwitterを駆け巡って見事上半期バズメイカーの第2位となった。惜しいのはこの話題にテレビの目立ったフォローがなかったことで、摂津選手、プチブレークのチャンスを一つ逃がしてしまったのかもしれない。
第3位のJIMINと7位のJ-HOPEはBTSのメンバー、JUNG KOOKとSUGAもそうだ。BTSはグループだけではなく各メンバーのツイートも多く、彼らにテレビ露出が伴えばあっという間にスーパースターの上位を占める存在になるかもしれない。
4位の禁断ボーイズはYouTuber。過激さが売りだった彼らが活動休止から戻ってきたらイマイチ過激でなくなった、キレが良かったのにどうにもやりきれないイマイチな感じが逆にウケてバズに。
5位のユジャ・ワンは北京生まれのクラシック・ピアニスト。サー・ラトル指揮のベルリン・フィルとのサントリーホールでのハイレゾライブ音源がリリースされたが、ユジャの魅力はそのブッ飛んだ超絶技巧テクニック(リアル”のだめ”!指が30本ある!動画の指が早すぎて残像しか写ってない!)とアイコン的なファッション。まるで場末のキャバレー嬢(失礼!)のような超ミニ超タイトなドレスにこれでもかというぐらいのピンヒールを履いてピアノのペダルを蹴りまくる、蹴りまくる、唯一無二の圧倒的なパフォーマーである、一度動画をご覧になることをお勧めする。
いかがだろう、バズメイカーのランキングにはテレビではあまり見ないが熱狂的なファンがついた個性的なタレントたちが沢山リストアップされていることがご想像いただけるだろうか?
これ以外にも上位には、美人すぎる女流棋士の室田伊緒、美人すぎるカーリング選手のアナスタシア・ブリズガロワ、セレブすぎるトップモデルのケンダル・ジェンナーなどエッジの効いたタレントたちや、Jリーグへの移籍が話題のイニエスタ、10年ぶりに復活したELLEGARDEN、おっさんずラブでプチブレークの林遣都など旬のニュース持ちのタレントたちが並ぶ。また、引退が話題になった小室哲哉や、矢島晶子(クレヨンしんちゃん声優)、田村正和など、もしかすると今期限りかもしれない話題のタレントたちもいる。
上図でご紹介した上位31名のTwitter増加数は前期比週平均+4,500件以上で、バズ増加数としてはかなり多いタレントたちだ。このランキングを週平均1,000件以上増加のタレントたちまで拡大すると、その人数は430名にもなる。430名の旬な話題を持ったバズメイカーのリストである、そこはまさに今が旬のネクストブレイカーの宝庫リストと言えるのではないだろうか。
この宝のリストを使えば、様々なキャスティングプランが立てられるのではないだろうか?
■バズメイカーがブレークする方法
では、この中から次に誰がブレークするのだろう?
以前の記事(次のスターは誰だ?タレントヒットの法則「100分の壁」)で、タレントがブレークする条件の第一歩は、週平均100分のテレビ露出量(100分の壁)を超えることであると申し上げた。バズメイカーとスーパースターの違いは、テレビ露出量だ。バズメイカーがスーパースターになるには、週平均テレビ露出量が100分、200分と増えていく必要がある。
どうやって増やすのか? もちろん、人的リレーションを使った伝統的な増やし方もあるだろう。ただ、ここで注目して欲しいのは、ご覧いただいたバズメイカーのランキングに含まれたタレントたちには、それぞれに「バズられる理由」があることだ。人的リレーションによってバズを得ているのではない、人々がそのタレントについて今この瞬間に語りたくなる理由があるからこれだけバズられているのだ。その「バズられる理由」こそ、”タレント(=才能)”と呼べるものではないだろうか。そのタレントが持っている「今人々にバズられる理由」こそが、そのタレントを構成している財産そのものなのだ。
■バズメイカーとは、スタートラインである。
ここにランキングされたタレントは、それぞれのバズられる理由をもって、今このラインに並んでいる。ここからテレビ露出量のブーストをかけられるかどうかは、個々のバズられる理由にガソリンを注いで火をつけた時にどこまでぶっ飛んでいけるのかという、人々の洞察にかかっている。
100分まで飛べる人、200分は超えられる人、滞空時間は半年、一年、複数年、それはタレントによって異なってくる。テレビは本能的にそのタレントが美味しいかどうかを判断し、オファーを行う。ただこれまでと違うのは、私たちにはリストがあることだ。優秀なプロデューサーであれば、このバズメイカーのリストを眺めただけで、それぞれのタレントが未来へ描く放物線がイメージできるはずだ。そして、その着地イメージの逆算から、どうやって100分まで持っていくか、持っていけないか、200分を超えさせられるかの具体的な作戦シナリオが湧いてくるはずだ。成功するかどうかはさらにいくつかのファクターと折り合いをつけていく必要がある。なのでスタート段階では読みきれない部分がある、やってみなくてはわからない部分もある、だが、いける素材かどうかは、あるていど見える筈だ。
商品やサービスをマーケティングして大きなビジネスをドライブするときも全く同じだ。素材でしかない商材をブレークさせて世界中を熱狂させるには、そもそもその素材に「バズられる理由」がなくてはならないのだ。人々が熱狂し、愛着を持ち、いつもそのことを考え、片時も忘れない存在になる、そんなスーパースターにも、スタートラインに並んでいた時期があったのだ。そんな孤独で不安な原石の放つかけがえのない光に、高純度のガソリンを注いで火をつける瞬間の興奮を、プロデューサー達は知っている。タレントが少しぐらい違った方向に飛んで行ってしまったとしても、それはそれで面白かったりするものだ。
さて、このテーマは長くなるので今回は一つだけ、100分、200分に伸ばした時とほとんど0分のスタートラインの時との決定的な違いについてお話ししよう。
それは、リーチだ。
当たり前だが、0分の時と、100分の時と、200分の時とでは、見ていた人が違う。0分の時には、200分の時見るであろう人たちは、見ていないのだ。どういうことか。BTSや禁断ボーイズやユジャ・ワンのことをあなたのお母さんやおばあさんに今説明しようとしても多分知らないだろう。ところが、仮にBTSや禁断ボーイズやユジャ・ワンがスーパースターになっている場合、そう架空の未来の話だが、そんな状況では、彼ら彼女のことをあなたのセンスから一番遠いところにいるあなたのおばあさんやおじいさんや親戚のダサいおじさんや職場のどうしようもないおじいさんたちが、もうとっくに知っているのだ。知っているどころか、あなたの知らないエピソードまで含めてBTSや禁断ボーイズやユジャ・ワンのことをおじいさんやおばあさんたちが我が事のように語るのである。「JIMINはあれだよねぇ、でもJ-HOPEとJUNG KOOKはどっちかっていうとさぁ、あれでしょ、だからSUGAがさぁ〜」これが、スーパースターだ。そしてその頃には今BTSを熱狂的にツイートしてる人々の何人かは別のアーチストを追いかけているだろう。ブレークとはそういうものだ。ブレークとは、情報の徹底的な消費だ。タレントの原石がキラキラと放っている「バズられる理由」が時代に徹底的にしゃぶり尽くされた時、そのタレントはスーパースターになるのである。
バズメイカーのリストからそんな未来が匂ってくれば、そのタレントは可能性がある。
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著者:梅田仁 | Jin Umeda
ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)所長
iPhone、iPod、iTunes、Mac、Apple TV、Apple Storeのシニア・マーケティング・プロデューサーとして、Apple(AAPL)を時価総額世界一のブランドに育て上げることに貢献。iTunesで取り扱う内外のエンターテインメント・コンテンツ、アーチストの需要トレンド、視聴者の嗜好パターン分析を通してプラットフォームメディアビジネスにも精通。2013年、ライフログ総合研究所を設立、TV Rank、Talent Rankサービスを展開中。著書:「売れない時代に売る新常識」出版文化社、2011