【TV-CM白書】第5回 「下降銘柄ランキング」〜要注意銘柄はここで見分ける!
東証上場全銘柄のTV-CM利用状況をまとめた「2023-2024 TV-CM白書 – 東証上場銘柄編」の5回目は、「下降銘柄ランキング」をご紹介する。
前回は、この白書の目玉の一つでもある「上昇銘柄ランキング」についてご紹介した。「上昇銘柄ランキング」は、TV-CMデータからスクリーニングされたTV-CM拡大銘柄、言い換えると今期強気の経営判断をしている収益期待、好決算期待の見込める魅力的な銘柄のリストだ。
今回は、このTV-CM上昇銘柄とは逆の「下降銘柄ランキング」についてお話をさせていただく。
「TV-CM白書」の最も有効な使い方の一つは、テレビデータから見た注目銘柄の発見、抽出だろう。たとえば、企業のマーケティング活動量を表すTV-CM指数が上昇している銘柄のリストである「上昇銘柄ランキング」は、今期強気の経営判断をしている銘柄のリストとして前回ご紹介した通りだ。
強気の上昇銘柄がわかるのであれば、当然それとは逆の「下降銘柄」についてもスクリーニングが可能になる。下降銘柄とはTV-CM量を今期減らしている銘柄であり、それは上昇銘柄とは逆に販売促進活動が縮小した銘柄であり、その結果売り上げの減少が予想され、売上減少の結果として利益も縮小し、利益が縮小すれば決算の期待値も思わしくない銘柄のリスト、ということになる。そう、「下降銘柄ランキング」は企業業績や株価の観点からは要注意と言える銘柄のリストである。
業績評価や株価に影響を与えるネガティブ・ファクターの発生をいち早く検出することは、リスクマネージメントの観点から極めて重要だ。株価推移や決算情報といった従来型の市場データとは別のオルタナティブ・データを利用するメリットの一つはここにある。従来型データにはない別の角度のデータソースから異変をいち早く検出できる可能性がオルタナティブ・データにはあるのだ。情報ソースの多角化、これはリスクマネージメントの要点の一つだろう。
好評価条件とは逆のネガティブ要因を伴った銘柄を他に先駆けて選別しリスト化する、そんなことが可能であれば強気銘柄の事前フィルタリング同様、市場評価が確立する前の「要注意銘柄」を他者よりも先に選別することが可能になる。従来型の市場データとは別にオルタナティブ・データを活用する意義がこれだ。
早速ランキングを見ていこう。
図は2024年1-6月期のTV-CM指数の「下降銘柄ランキング」だ。前年同期に比べてTV-CM指数が減少している銘柄のランキングである。前年同期とのCM指数の差分が大きかった銘柄が降順でランキングされている。東証全銘柄を対前年で見たときのCM指数の減少量が多かった銘柄のリストである。TV-CMを削減した銘柄のリストだ。
図1は2024年1-6月期のTV-CM指数の「下降銘柄ランキング」だ。前年同期に比べてTV-CM指数が減少している銘柄のランキングである。前年同期とのCM指数の差分が大きかった銘柄が降順でランキングされている。東証全銘柄を対前年で見たときのCM指数の減少量が多かった銘柄のリストである。TV-CMを削減した銘柄のリストだ。
下降ランキング1位の銘柄の「CM指数前年差」は-7.18、1年前の2023年1-6月期と比べてCM指数が-7.18ポイント減少したこの銘柄が対前年での減少量が最も多かった銘柄、という意味である。この減少量は比率で見ると昨年に対して-65.8%の減少で、減少後のこの銘柄の今期のCM指数は3.73。昨年同期に対してTV-CMを-65.8%、率にして半数以上も減少させたこの銘柄が減少量で1位であったと言うことだ。
昨年に対しTV-CMの半減を決断し、減少幅では全銘柄中No.1となった銘柄ということである。純減分が1位ということは減少分のCM削減金額も最も大きかった銘柄ということも言える。金額ベースでNo.1の弱気判断をした銘柄、その判断の背景には何があるのだろう。何を見据えた上でのこの縮小の決定なのだろうか。なんとも興味深い銘柄ではないだろうか。
もちろん、対前年増減率の比率で見れば1位の-65.8%よりも数値が大きな銘柄は複数存在する。その最も大きな数値は-100%、つまり昨年実施したTV-CM分が今期はまるまる全てなくなって今期のCM量が0である銘柄、そう「TV-CMの今期打ち切り」銘柄である。
これはこれで大きなニュースではないだろうか。
皆さんの中でTV-CMを今期打ち切った銘柄のリストをお持ちの方はいらっしゃるだろうか?
TV-CMの打ち切りという大きな経営判断をした割には、これがプレスリリース等で発表されることはない。よくて年度末の決算発表の時に、今期の経費削減効果等の説明の中でさらりと一行触れられるかどうかであろう。
「TV-CM白書」をつかえば、そんなビッグニュースを決算発表のはるか以前の事業年度期中に知ることができるのである。これは大きなアドバンテージではないだろうか。
打ち切り銘柄の次に増減率で注目すべきは、増減率が-50%よりも大きな銘柄、そう今期のTV-CM量が打ち切り(-100%)までいかなくても半減かそれ以上の減少をしている銘柄、販促規模を半分以下に減少させている銘柄である。「要注意銘柄」、あるいは「打ち切り予備軍銘柄」と呼んでもいいのかもしれない。
これら減少銘柄を評価する上で重要なのは減少後のTV-CM指数、つまり今期のCM指数の数値だ。CM指数=1がTV-CM実施企業のCM量の平均値であるとご説明した。CM指数=1は相対的に有効なTV-CM量が確保されている状態と評価でき、減少後の今期のCM指数がなを1を超えていれば減少後でも十分な規模が確保されていると評価できる。それは積極的な投資抑制であり、その結果は逆にポジティブなものになる可能性もある。一概に削減したから弱気であるということではないのだ。
これとは反対に、減少後のCM指数がCM実施銘柄平均の1を下回っていれば、そのTV-CM量は販促効果を維持する上でやや疑問な量であると言わざるを得ない。
つまり、下降銘柄であっても今期のCM量が十分確保されているのであれば今期の減少分はCM投入量調整の結果であると前向きに評価できる場合もあるし、同じ減少銘柄であっても減少後の今期CM指数が1を割り込んでいるのであればそこには厳しい経営環境があることが予想される。本当はもう少しCM量を確保したいところではあるがそれができない銘柄、現場の要望に応えきれない経営環境にある銘柄、ということが言えるかもしれない。このような銘柄に投資し続けるには注意が必要ではないだろうか。そして、そのような経営状況は決算期まで明かされない可能性もあるのだ。従来型の市場データから検知することは難しいかもしれない。
いかがだろう、このように「下降銘柄ランキング」は単純に今期弱気のマーケティング判断をしているであろう銘柄を一覧にしたリストという本来機能以外にも、その減少分、減少比率、減少後の今期指数のレベルなどから銘柄ごとの営業状況、経営判断などを分析していくための手がかりを数多く与えてくれるデータ集という側面も持っていることがお分かりいただけるだろうか。
今回ご紹介した「下降銘柄ランキング」は、今期弱気の判断をしていると思わざるをえない収益期待、決算期待を積極的に見込むことが難しい注意すべき銘柄のリストであり、ここからさまざまな銘柄の分析を展開することもできる示唆に富んだ起点リストでもあることもご理解いただけただろうか。
次回は、銘柄から離れて「ブランドランキング」についてお話をさせていただく。
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【TV-CM白書】シリーズ
第1回 「TV-CM白書、登場!!」〜CMデータから注目銘柄を分析!〜
第2回 「TV-CM白書、登場!!〜CM銘柄ランキング」
第3回 「TV-CM白書、登場!!〜CMデータで銘柄分析」
第4回 「上昇銘柄ランキング!」
第5回 「下降銘柄ランキング」〜要注意銘柄はここで見分ける!
第6回 「ブランドランキング」〜優良銘柄はこれでわかる!
第7回 「ブランドランキング」からわかる優良銘柄とは?
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著者:梅田仁 | Jin Umeda
ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)所長
iPhone、iPod、iTunes、Mac、Apple TV、Apple Storeのシニア・マーケティング・プロデューサーとして、Apple(AAPL)を時価総額世界一のブランドに育て上げることに貢献。iTunesで取り扱う内外のエンターテインメント・コンテンツ、アーチストの需要トレンド、視聴者の嗜好パターン分析を通してプラットフォームメディアビジネスにも精通。2013年、ライフログ総合研究所を設立、TV Rank、Talent Rankサービスを展開中。著書:「売れない時代に売る新常識」出版文化社、2011