【2023-2024 TV-CM白書】第7回「ブランドランキング」からわかる優良銘柄とは?

東証上場全銘柄のTV-CM利用状況をまとめた「2023-2024 TV-CM白書 – 東証上場銘柄編」7回目は、前回に続き銘柄評価を行う上での重要指標となる「ブランドランキング」についてご紹介する。

これまでご紹介してきた「銘柄ランキング」が東証上場銘柄ごと、つまり証券コードが付与された上場企業銘柄そのものについてのTV-CM実施量のランキングであったのに対して、「ブランドランキング」はその銘柄が実際にTV-CMした商品・サービスのブランドごとのランキングだ。上場企業銘柄のレベルではなく、その銘柄を一段階掘り下げた商品・サービスのレベルのランキングである。銘柄によっては複数の商品・サービスをCMしているケースも多くあるので、実際にTV-CMされたブランド単位での集計を行うことによって、銘柄のレベルをさらに一段階深掘りしたTV-CM実施ベースでの詳細分析を行うことが可能となる。

ではさっそく実際のブランドランキングを見てみよう。



図1)2024年1-6月期のTV-CM指数の「ブランドランキング」





図1は2024年1-6月期のTV-CM指数の「ブランドランキング」だ。TV-CMされた商品、サービスのブランドごとのTV-CM露出量(TV-CM指数)をランキング形式にしたものである。企業広告の場合も企業名をブランドとしてカウントしているので他の商品、サービス広告と同列で比較することができる。

「ブランド」の次に表示されている「カテゴリー」は、そのブランドが属する商品、サービスのカテゴリーのことだ。「TV-CM白書」の元となっているTVメタデータでは、TV-CMされた商品、サービスのカテゴリーを34に分類して集計している。つまり「TV-CM白書」においてもTVの放送記録の業界標準であるTVメタデータで採用された商品・サービスカテゴリー区分に準拠した分類で集計されているということになる。

このカテゴリー別にブランド・ランキングを再集計したページもご提供しているので、主要商品カテゴリーごとのブランドの強弱を把握することもできるし、それらを通して上場銘柄ごとに見た場合のそれぞれの銘柄の各商品カテゴリーにおけるプレゼンスやポジショニングを確認することも可能だ。その銘柄がこのカテゴリーではどの程度の強さなのか、競合はどこかといったことが個別の商品カテゴリー単位で確認できるわけだ。個々の銘柄はそれぞれ複数の商品・サービスカテゴリーでTV-CMを実施している、つまり事業を行なっているので、その事業領域である商品・サービスカテゴリーごとの個々の銘柄の強み弱みや競合とのポジショニングがわかるのである。

このブランド軸とカテゴリー軸を掛け合わせて事業単位での銘柄分析を行うことが、どれほど有効な銘柄分析になるかお分かりいただけるであろうか。



「証券コード」、「銘柄名」はそのブランドをTV-CMしている銘柄名と証券コードを表している。銘柄単位でブランドやカテゴリーを再集計すれば、銘柄ごとのマーケティング戦略の詳細がわかるわけだ。

「対前年増減率」、「対前期増減率」、「CM秒数」はこれまでのランキングと同様であり、前年、前期に対してのそのブランドの増減トレンドがブランド単位、カテゴリー単位で把握できる。

そしてこのブランドランキングで最も特徴的なのは、「カテゴリーランク」と「カテゴリーシェア」の2つの指標だ。これは「TV-CM白書」の目玉の一つとも言える大変重要な指標である。



これまでご紹介してきた個別銘柄の評価軸からは、銘柄単位で見たときのマーケティング投資の効率、つまりTV-CMを実施しているカテゴリーの数とブランドの数がその銘柄にとって適切なのかという観点を提供してきた。例えば同業他社銘柄と比較したときに、その銘柄のカテゴリー・ブランド・ポートフォリオは妥当なのかどうかということだ。

だが銘柄ごとの分析を深めていくと、個々の銘柄がアロケーションしているカテゴリーの数やブランドの数だけでは検証できない壁にぶつかっていく、それはカテゴリー、ブランドごとの投資規模の妥当性だ。CMを実施するカテゴリーの数やブランドの数が競合他社と比べて大きな乖離がない場合でも、個々の投資規模まで見なければそれが単なる数合わせなのか、それともマーケットに対して主導権や優位性を持った投資であるのかが判断できない。それはつまりそのアロケーションが本当に有効なCM投資であるのかどうかが判断できないということだ。数だけでわかるのは実施したというファクトだけであり、順位や量を見なければその妥当性が検証できない、そのCMがきちんとその商品カテゴリーにおいて機能しているのかどうかがわからないのだ。

ブランドランキングの「カテゴリーランク」と「カテゴリーシェア」は、ブランドごとの投資の妥当性を検証してくれる。

皆さんは「支配的ブランド」や「従属的ブランド」といった言葉や概念に触れたことがおありだろうか?



強いブランドとは、そのカテゴリーにおいて絶対的な決定権を握るブランドである。つまりそのマーケットを実質的に支配しているブランドだ。カテゴリーを支配するとはどういうことか、それはたとえば価格の決定権であり、数量の決定権であり、時期の決定権である。

そんなことが可能なのかと思われるかもしれない。無理はない、世の多くの企業はたいてい決定権のないマーケットにおいて誰かの決めた価格、数量、時期に右往左往されながら働いているのだから。マーケットに対して支配力のある支配的ブランドはほんの一握りの例外的な存在であり、世の多くのブランドはすでに存在するマーケットで自らの生存をかけて日々争ってる存在である。それらマーケット環境において主体性を保つための競争にさらされているブランドを従属的ブランドと呼ぶ。たとえば従属的ブランドのマーケティングでよく使われる言葉は「差別化」だ。つまりそのブランドは客観的に見ると自らの存在だけでは他のブランドと区別がついていないということを自ら認めてしまっていることになる。多くのブランドはこの従属的な思考から自らの存在をかけて努力を続けていくことになる。

では支配的ブランドとは何か。

ブランドランキングの「カテゴリーランク」をご覧いただこう。ここに表示されている1とか2といった数値は、そのブランドが所属する商品カテゴリーでのTV-CM指数の順位を表している。たとえば、数値が1であれば、そのブランドはその商品カテゴリーでTV-CMを最も実施しているブランドであるということ、そのブランドのそのカテゴリーでのTV-CMの量が1位であるということだ。このブランドランキングの上位のブランドにカテゴリーランクが1位、ないし2位のブランドが集中しているのがお分かりいただけるだろうか。これらのブランドはTV-CM量がそのカテゴリーで1位であるブランドたち、つまりそのカテゴリーにおける支配的ブランドの候補条件を満たしているブランドであると言える。



「カテゴリーシェア」はそのカテゴリーにおけるそのブランドのTV-CMの量が、そのカテゴリーでどの程度のシェアになるのかを表している。たとえばこのブランドランクで1位のブランドは、カテゴリーランクが1位であり、そのブランドのカテゴリーでのTV-CM量のシェアは6.4%である、という意味になる。

そのカテゴリーにおいて支配力を持つブランドとは、カテゴリーランクが1位か上位であり、そのカテゴリーにおけるTV-CMのシェアも比較的大きいブランドである。たとえば、カテゴリーランクが1位でカテゴリーシェアが2桁、特に20%以上のシェアを持つブランドのカテゴリーにおける支配力はそうではないブランドと比べて大きいと言えるのではないだろうか。時系列で見た場合、特定のブランドが常に1位を占め、比較的優位なシャアを維持し続けていたら、そのブランドがそのカテゴリーにおける支配的ブランドである可能性は高いと言えるだろう。

もちろんカテゴリーごとにブランドの占有構造は異なってくる。1つのブランドが支配的なカテゴリーもあれば、複数の支配的グループとその他の従属的グループで構成されているカテゴリー、あるいは決定的な支配力が確立されていない群雄割拠型のカテゴリーなど、さまざまな類型の違いも想定される。分析対象とする銘柄がどのようなカテゴリーに属しているのかは興味深いところだ。

「TV-CM白書」を活用するということは、このようにその銘柄の置かれた環境、ブランド状況、カテゴリー条件を把握し、環境変化のトレンドを掴み、競合との関係を俯瞰するということだ。その上で投資の妥当性を検証し、起こり得る将来のシナリオを描き、変化の予兆を先取りするということになる。

各銘柄がTV-CMに対して行っている投資の現状と過去からの変化を総覧することにより、その銘柄に対する投資の妥当性を検証するのだ。



いかがだろう、今回ご紹介した「ブランドランキング」は、TV-CM実施状況の観点から各商品カテゴリーに対して支配的なポジションにあるブランドとあまりそうとは言えないブランドを明示するリストであり、これらのブランドを運営している各銘柄そのもののマーケット支配力や従属度に対する評価に活用することのできるリストということができる。



次回は、この「ブランドランキング」から得られるブランドやカテゴリーについての知見を、さらに詳しくお話しさせていただく。





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【TV-CM白書】シリーズ

第1回 「TV-CM白書、登場!!」〜CMデータから注目銘柄を分析!〜
第2回 「TV-CM白書、登場!!〜CM銘柄ランキング」
第3回 「TV-CM白書、登場!!〜CMデータで銘柄分析」
第4回 「上昇銘柄ランキング!」
第5回 「下降銘柄ランキング」〜要注意銘柄はここで見分ける!
第6回 「ブランドランキング」〜優良銘柄はこれでわかる!
第7回 「ブランドランキング」からわかる優良銘柄とは?
第8回「ブランドランキング」でわかるカテゴリー別優良銘柄〜1. 競争型カテゴリー
第9回「ブランドランキング」でわかるカテゴリー別優良銘柄〜2. 支配型カテゴリー


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