【2023-2024 TV-CM白書】第10回「ブランドランキング」でわかるカテゴリー別優良銘柄〜3. マイナーブランド型
東証上場全銘柄のTV-CM利用状況をまとめた「2023-2024 TV-CM白書 – 東証上場銘柄編」10回目は、「カテゴリー別ブランドランキング」を使った銘柄評価についてお話しする。前回までご紹介した「複数ブランド競争型」カテゴリー、「単一ブランド支配型」カテゴリーに続いて、3番目のカテゴリー類型である「マイナーブランド共存型」カテゴリーについてご説明しながら、TVデータを使った銘柄評価のポイントについて解説させていただく。
「TV-CM白書」では、東証に上場している企業銘柄を「銘柄」、その企業銘柄が保有しTV-CMを行っている商品・サービスの名称を「ブランド」、そのブランドが所属する商品・サービスのカテゴリーを「カテゴリー」と呼んでいる。またこれとは別に東証が区分している上場銘柄の業種分類を「業種」と呼ぶ。東証では業種を33に分けた「33業種区分」と17に分けた「17業種区分」が存在するので、「業種」の名称を使うときはどちらの区分であるのかも明記させていただいている。
「TV-CM白書」では、「銘柄」別、「ブランド」別、「カテゴリー」別、「業種」別、「銘柄」毎にデータをスクリーニングできるので、多彩な角度から注目銘柄・上昇銘柄・下降銘柄の発見、比較、分析が可能だ。株価を元にした従来型の銘柄分析とは異なり、TVでの銘柄ごとの情報量の増減という全く新しい切り口による分析は、これまでの銘柄評価の手法に新たな厚みを付加してくれるはずだ。
この連載では最初に「銘柄」のTV-CMランキングをご紹介させていただいた。この銘柄ランキングを「業種」別の上昇銘柄、下降銘柄、業種ランク、業種シェアなどの指標で絞り込めば、セクター別の銘柄評価も可能になる。情報量のトレンドから見たセクターごとの銘柄ポートフォリオが出来上がるのだ。
今回ご紹介するのは前回に続いて「ブランド」毎のTV-CMランキンングだ。今回はそれをさらに「カテゴリー」別に集計した「カテゴリー別ブランドランキング」についてお話をさせていただく。
「TV-CM白書」では、商品・サービスカテゴリーをTVの放送記録であるTVメタデータの仕様にあわせて34に分類している。これら34の「カテゴリー別ブランドランキング」を、TV-CMの露出量を表すTV-CM指数の分布状況で見た場合、
「複数ブランド競争型」カテゴリー
「単一ブランド支配型」カテゴリー
「マイナーブランド共存型」カテゴリー
の3つのパターンに分類することができるとご説明してきた。
「複数ブランド競争型」カテゴリーとは、TV-CMを実施している全銘柄の平均値であるCM指数=1を超えるブランドが複数存在する商品カテゴリーのことである。銘柄平均値以上のTV-CMブランドが複数存在するということは、商品マーケティングが活性化されているカテゴリーということだ。この「複数ブランド競争型」カテゴリーのランキングを見ていくと、ブランドの分布状況に特徴があることがわかる。まず上位に分布するのはその商品カテゴリーを代表するトップブランド群だ。そしてそれに続くミドルブランド群、さらにその下のマイナーブランド群、最後は数的にはカテゴリーの多数を形成しているロングテールブランド群、以上の4つのレイヤーが存在していることをご紹介してきた。さらに、2番目の類型である「単一ブランド支配型」カテゴリーでは、CM指数=1超えの支配的ブランドが1つだけ存在するのが特徴であるが、その指数=1超の支配的ブランドに迫る挑戦者ブランドが複数存在していることがわかった。つまり銘柄評価のポイントは、個々の銘柄がカテゴリーごとに展開しているブランドがそのカテゴリーでどのポジションに属しているのかを見極めることが重要な事業評価項目になるということだ。
では今回ご紹介する第三のカテゴリー類型であるCM指数=1超えのブランドが一つも存在しない「マイナーブランド共存型」カテゴリーには、どのような特徴が存在するのだろう。
早速図1をご覧いただこう。
これは「マイナーブランド共存型」カテゴリーでのブランドランキングの一例である。
このランキング1位のブランドのCM指数は0.66で、これまでご紹介してきた他の2類型とは異なりこのカテゴリーにはCM指数=1超えのブランドが存在していないことがわかる。
ランキング1位のブランドのカテゴリーシェアは11.2%あるが、2位以下のシェアも8.9%、7.6%、6.6%と続き、1位のシェアの11.2%だけが大きく突出しているわけではない。前回ご紹介した「単一ブランド支配型」カテゴリーでは1位のブランドが2位以下に2〜3倍のシェアの差をつけていたのと比べると、「マイナーブランド共存型」カテゴリーでは1位のブランドと2位以下のブランドのカテゴリーシェアの差は大きなものとは言えない。
「マイナーブランド共存型」カテゴリーの特徴を理解するために、このカテゴリーに所属しているブランドと、他の2類型のカテゴリーに所属しているブランドとの違いを見てみよう。
その違いを数理的に把握するために、それぞれの類型ごとのCM指数の分布状況をデータのばらつきという観点で比較してみる。
ばらつきとは、それぞれの集団の数値が平均値からどのくらい離れているのかを比較する考え方だ。標準偏差という考え方で、標準的な偏差、つまり標準的な平均値との差に対してこの標準偏差の数値が大きければ、平均値から離れているデータが多いということになり、データのばらつき具合が大きいという評価になる。反対に標準偏差が小さければ、平均値に近いデータが多く、データのばらつき具合が小さいという評価になる。
早速見てみよう。
今回比較するグループは「マイナーブランド共存型」カテゴリーと、これまでご紹介してきた他の2類型である「複数ブランド競争型」、「単一ブランド支配型」カテゴリーについてだ。
今回ご紹介している「マイナーブランド共存型」カテゴリーの例では、そのカテゴリーに36のブランドが所属している。その商品・サービスカテゴリーで36のブランドがTV-CMを行っているということだ。そのうちランキングの最下位である最小のブランドのCM指数は0.000023、反対にランキングの最上位ブランドのCM指数は0.660601、その差は0.660578である。差をブランド数の36で割ると1ブランドあたりの差は0.018349、カテゴリー全体のCM指数の平均値は0.163677148である。
このブランド集団の標準偏差は0.164349197。この標準偏差の数値を他のカテゴリーと比較することで3つの商品カテゴリー類型に所属するそれぞれのブランドのばらつきの差を見てみよう。
この連載の最初にご紹介した「複数ブランド競争型」カテゴリーの例では、そのカテゴリーに209のブランドが所属していた。その商品・サービスカテゴリーで209のブランドがTV-CMを行っているということだ。そのうちランキングの最下位である最小ブランドのCM指数は0.001153、反対にランキングの最上位ブランドのCM指数は6.254382、その差は6.253229である。差をブランド数の209で割ると1ブランドあたりの差は0.029920、カテゴリー全体のCM指数の平均値は0.467356461である。
「複数ブランド競争型」カテゴリーの標準偏差は0.91946711。「マイナーブランド共存型」カテゴリーの標準偏差0.164349197と比べると大きな数値だ。「複数ブランド競争型」カテゴリーは、「マイナーブランド共存型」カテゴリーよりも所属するブランドのCM指数の数値のばらつきが大きい、という結果が標準偏差の数値により証明されたということだ。
標準偏差の数値は、各データが平均値から標準的にその数値だけ離れているということを表している。例えば「複数ブランド競争型」カテゴリーの場合、CM指数の平均値0.467356461に対して標準偏差が0.91946711であり、平均値0.467356461に対して各データが標準的に0.91946711離れているという意味になる。それはつまり平均0.467356461±0.91946711の範囲に全データの約68%が含まれているということだ。平均値に対して上下0.91946711の幅に全データの約7割が分布しているということになる。
「マイナーブランド共存型」カテゴリーの場合はその幅(標準偏差)は0.164349197であったので、「複数ブランド競争型」カテゴリーと比べて「マイナーブランド共存型」カテゴリーのほうがデータのばらつき(分布幅)が小さいということになる。「マイナーブランド共存型」カテゴリーのほうがより同じようなTV-CM規模のブランドで構成されているということだ。
では、もう一つの比較対象、「単一ブランド支配型」カテゴリーの場合はどうか。
この連載の二番目にご紹介した「単一ブランド支配型」カテゴリーの例では、そのカテゴリーに56のブランドが所属していた。その商品・サービスカテゴリーで56のブランドがTV-CMを行っているということだ。そのうちランキングの最下位である最小ブランドのCM指数は0.002310、反対にランキングの最上位ブランドのCM指数は1.577140、その差は1.574830である。差をブランド数の56で割ると1ブランドあたりの差は0.028122、カテゴリー全体のCM指数の平均値は0.19189である。
この「単一ブランド支配型」カテゴリーの標準偏差は0.23784879。「複数ブランド競争型」カテゴリーの標準偏差0.91946711、「マイナーブランド共存型」カテゴリーの標準偏差0.164349197と比べると、「単一ブランド支配型」カテゴリーのデータのばらつきがどちらに近いかお分かりいただけるだろう。「単一ブランド支配型」カテゴリーの構成ブランドは、「マイナーブランド共存型」カテゴリーのブランド群と同じようなTV-CM規模のブランドで構成されているのだ。
さらに面白い分析をしてみよう。
「複数ブランド競争型」と「単一ブランド支配型」カテゴリーが「マイナーブランド共存型」カテゴリーと大きく異なるのは、CM指数=1超のブランドが存在しているかどうかであった。「複数ブランド競争型」では複数、「単一ブランド支配型」でも1つのCM指数=1超のブランドが存在していたのに対し、「マイナーブランド共存型」カテゴリーではCM指数=1超のブランドはゼロであった。
そこで、「複数ブランド競争型」カテゴリーのCM指数=1超のブランドのみとそれ以外、「単一ブランド支配型」カテゴリーのCM指数=1超のブランド以外で標準偏差を算出してみた。各カテゴリー類型をCM指数=1超の部分で分割して比較するのである。すると、面白いことがわかった。
「複数ブランド競争型」カテゴリーの例のCM指数=1超のブランド数は28、標準偏差は1.474361292。これに対して「複数ブランド競争型」カテゴリーの例でのCM指数=1超以外のブランドの数は181、標準偏差は0.245642606であった。この0.245642606という数値は「単一ブランド支配型」カテゴリーの標準偏差0.23784879とほとんど同じである。
「複数ブランド競争型」カテゴリーでCM指数=1超のブランドを除くと、データのばらつきは「単一ブランド支配型」カテゴリーとほとんど変わらなかったのである。
「複数ブランド競争型」カテゴリーでCM指数=1超のブランドを除いた場合、最小のTV-CM指数は0.001152881、最大のTV-CM指数は0.981102151。「単一ブランド支配型」カテゴリーのそれが最小0.002310、最大1.577140(ただしCM指数=1超のブランドは1つのみ)であるので、データの分布にあまり差がないということになる。
さらに、「単一ブランド支配型」カテゴリーで1つだけ存在するCM指数=1超のブランドを除くとその標準偏差は0.14858306になる。これは「マイナーブランド共存型」カテゴリーの標準偏差0.164349197とほとんど変わらない数値だ。
お分かりいただけるであろうか、3つのカテゴリー類型ともCM指数=1超のブランドを除くとそのデータの分布にはほとんど差がなかったのである。
整理すると、「マイナーブランド共存型」カテゴリーとはCM指数=1超のブランドが存在しないカテゴリーであり、TV-CMの量で他のブランドを圧倒するよりも、個々のブランドがそれぞれの事業領域を最小のTV-CM量で維持している共存型のカテゴリー、という説明ができるかもしれない。
「単一ブランド支配型」カテゴリーとは、基本的に「マイナーブランド共存型」カテゴリーと同じであるが、例外的にCM指数=1超のブランドが1つだけ存在し、そのポジションに近しい上位ブランドも少数存在するカテゴリー、ということができる。このカテゴリーの大半は「マイナーブランド共存型」と同じそれぞれの事業領域を最小のTV-CM量で維持している共存型のカテゴリーなのだが、唯一例外的に支配的な動きをするカテゴリー1位のブランドと、それに呼応しつつあるブランドが存在するカテゴリーであると言える。
最後に「複数ブランド競争型」カテゴリーとは、これもベースは「マイナーブランド共存型」と同じなのだが、その上に複数のCM指数=1超のブランドが存在し、カテゴリーを活性化していると説明することができる。「複数ブランド競争型」カテゴリーではベースのブランド共存型の環境の上に、今回の例ではカテゴリーを代表するトップブランド群と、それに続くミドルブランド群、さらにその下のマイナーブランド群が存在していることはすでにご説明した。その説明の最後の数的にはカテゴリーの多数を形成する4番目のレイヤー「ロングテールブランド群」が「マイナーブランド共存型」であるとすれば理解しやすいと思う。
銘柄評価の視点でTV-CMブランドを見るには、その銘柄がCM指数=1超のブランドを保有しているのかどうかを最初に見極めればいいということになる。指数=1超のブランドがあれば、それはカテゴリーランクでどのポジションにあり、どのようなカテゴリーレイヤーに属しているのかを判別する必要がある。それにより、その銘柄のブランド力が把握でき、そのカテゴリーでの振る舞いや競合分析、リスク、収益性、事業性の評価が可能となる。
また指数=1超でなくても、それが上位レイヤーを窺う挑戦者ポジションにあるのか、他との共存を図るロングテール型の安定したブランドであるのかも重要な評価ポイントだ。
このように「TV-CM白書」の「カテゴリー別ブランドランキング」を使うと、それぞれのブランドのポジショニングが分かり、各銘柄がどのような環境にあるブランドを保有しているのか、その結果それぞれの事業領域(カテゴリー)でどのようなチャンスや脅威に晒されているのかを把握することが可能となる。「TV-CM白書」では銘柄ごとにまとめてその構成ブランドのカテゴリーランクやシェア、TV-CM指数や対前年・対前期トレンドを確認することもできるので、銘柄毎の事業領域(カテゴリー)診断も可能だ。複数のカテゴリーでブランド展開をしていれば、その銘柄のコアドメインがどこなのか、ロングテール型の維持ドメインがどこなのかといった判断も可能となる。それは競合銘柄の事業構成と比べてどうなのかといったところも興味深いだろう。そこから他のデータでは得られない最新かつ現況の事業状況を掴むこともできる。決算として期が締められるよりも前の投資段階、執行段階でのカテゴリーブランドポートフォリオが随時、任意のタイミングで確認できるのである。
「TV-CM白書」を使った銘柄評価の可能性に、ご興味をいただけただろうか。
TVデータという従来型のテクニカル指標とは異なるオルタナティブデータならではの視点に可能性をお感じいただければ幸いである。
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【TV-CM白書】シリーズ
第1回 「TV-CM白書、登場!!」〜CMデータから注目銘柄を分析!〜
第2回 「TV-CM白書、登場!!〜CM銘柄ランキング」
第3回 「TV-CM白書、登場!!〜CMデータで銘柄分析」
第4回 「上昇銘柄ランキング!」
第5回 「下降銘柄ランキング」〜要注意銘柄はここで見分ける!
第6回 「ブランドランキング」〜優良銘柄はこれでわかる!
第7回 「ブランドランキング」からわかる優良銘柄とは?
第8回「ブランドランキング」でわかるカテゴリー別優良銘柄〜1. 競争型カテゴリー
第9回「ブランドランキング」でわかるカテゴリー別優良銘柄〜2. 支配型カテゴリー
第10回「ブランドランキング」でわかるカテゴリー別優良銘柄〜3. マイナーブランド型
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著者:梅田仁 | Jin Umeda
ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)所長
iPhone、iPod、iTunes、Mac、Apple TV、Apple Storeのシニア・マーケティング・プロデューサーとして、Apple(AAPL)を時価総額世界一のブランドに育て上げることに貢献。iTunesで取り扱う内外のエンターテインメント・コンテンツ、アーチストの需要トレンド、視聴者の嗜好パターン分析を通してプラットフォームメディアビジネスにも精通。2013年、ライフログ総合研究所を設立、TV Rank、Talent Rankサービスを展開中。著書:「売れない時代に売る新常識」出版文化社、2011