【元 読売テレビ・西垣内さん特別寄稿1】テレビ局のイメージに関係?オンエアされたテーマと局の傾向とは
エム・データがリリースしています「TV Rank」シリーズから得られた知見を元に、元・讀賣テレビ放送株式会社編成局マーケティング部で10月より大阪府四條畷市のマーケティング監に就任されます西垣内さんからの特別寄稿を3日連続でお届けいたします。第一回目は「TV Rank 番組編」による気づきをまとめていただきました。
日々テレビで報じられる情報のジャンルは、テレビ局・チャンネルによって傾向が違うのか?今年7月1日から8月13日に放送された番組の内容を、エム・データ社の「TV Rank 番組編」検索サマリー機能を使って、局ごとに浮き彫りにすることを試みた。
まずは、政治系トピックと芸能系トピックとで量的な違いが見られるかどうか、ここ1か月でもっともわかりやすい言葉で比較してみた。政治系は「安倍(晋三首相)」、芸能系は「不倫」でピックアップした。
まず、「安倍」というワードを含んで放送時間・取り上げた回数ともに多かったのはTBSで、合計87時間超と2番目に多かったテレビ朝日を30時間近く上回っていた。番組別では「ひるおび」が29時間超で局全体の3割強を占め、次いで「ゴゴスマ」が16時間でこの2番組で半分以上を占めた。お昼から午後にかけて精力的に報道している様子が見て取れる。テレ朝は「ワイド!スクランブル」が12時間報じて局全体の2割を占め、「羽鳥慎一モーニングショー」「グッド!モーニング」がこれに続いた。TBSに比べれば朝帯の早い時間で多く扱われている。3番目に多かったNHK総合は「国会中継」が全体の2割近くを占めていた。逆に日本テレビは、朝の「ZIP!」から夕方の「news every.」まで12時間以上生放送の情報・報道番組を放送しているが、このトピックに関しては合計32時間と相対的に少なく、その中で最も多かった番組でも「情報ライブミヤネ屋」の7時間であった。
一方、今度は芸能トピックで多くの時間を費やされていると考えられる「不倫」にて検索を試みた。すると、フジテレビが唯一30時間を超えていちばん多く、2番目に多かったTBSの2倍近い時間となった。フジテレビの内訳を見ると「バイキング」が10時間、続く「直撃LIVEグッディ!」が7時間で半数を占めた。ちなみに「バイキング」が放送されるお昼12時台・13時台において、同時間帯の他局番組でこのトピックについて扱われることが多かったものでもテレ朝「ワイド!スクランブル」で2時間強と、いかに「バイキング」が力を入れて取り上げていたかがよくわかる。フジテレビに次いで多かったのはTBSだったが、番組別に見れば政治的なトピックの多かった「ひるおび!」ではなく「ビビット」「ゴゴスマ」がそれぞれ5時間弱・4時間弱と多かった。日テレは3番目に多かったが、「ミヤネ屋」が6時間強と半分以上を1番組で占めていた。
筆者はこれ以外にも、政治系トピックでは最近よく報じられているキーマンの人名や、芸能系トピックとしては「結婚」というワードでも分析を試みたが、傾向は上記と同じだった。つまり、政治系トピックはTBSを筆頭にテレ朝やNHKでの放送時間が長く、芸能系はフジテレビで長く扱われていた。
政治系トピックでは、「安倍」以外にも「小池(百合子東京都知事)」「習近平(中国国家主席)」「文在寅(韓国大統領)」「トランプ(アメリカ合衆国大統領)」「金正恩(朝鮮労働党委員長)」について調べ、テレビ局によって差があるのかを比べてみた。すると、いずれにおいてもTBSの放送時間が長かったが、いくつか傾向が分かれた。
【TBSが他局より非常に長かった】
「小池」…TBSは35時間弱で、2位テレ朝に10時間以上差をつけた。定例会見の時間がちょうど放送時間に含まれる「ゴゴスマ」で9時間弱扱われ、「ひるおび!」「Nスタ」といった午後の番組で目立った
【TBSとテレ朝拮抗】
「文在寅」…TBSは5時間強、テレ朝は4時間と1時間差。TBSは「ひるおび!」「Nスタ」と午後の番組で多く扱われていたが、テレ朝では「モーニングショー」「週刊ニュースリーダー」「グッド!モーニング」といった午前中の番組が目立った
「金正恩」…TBSが14時間強、テレ朝が11時間。番組別ではTBSは同じだったがテレ朝では「ワイド!スクランブル」がいちばん多かった
【TBS・テレ朝・NHKの三つ巴】
「トランプ」…NHKがもっとも多く22時間超、次いでTBSが21時間、テレ朝が20時間弱だった。NHKでは「NHKニュースおはよう日本」「日曜討論」で多く扱われ、討論番組でテーマとなったことで民放局を上回る時間量となった。TBSは「ひるおび!」「Nスタ」が多く、テレ朝は「ワイド!スクランブル」「スーパーJチャンネル」で多かった。ともにお昼と夕方の番組で多く取り上げていた。
「習近平」…TBSが4時間57分、NHKが4時間56分、テレ朝が4時間49分と各局僅差だった。TBSは「Nスタ」「ゴゴスマ」で多く、NHKでは「日曜討論」、テレ朝は「ワイド!スクランブル」でそれぞれ半数を占めた。
このように、民放局ではTBS・テレ朝の特徴が目立った。2局の違いをさらに見出すために、各トピックが1回取り上げられるごとの放送時間を計算してみた。すると、「小池」トピックを除いてはテレ朝のほうがTBSよりも平均時間が長く、1トピックについてじっくり報じていたと言える。
「どのチャンネルでも同じことをやっている」「似たような番組が多い」といった批判もよく聞かれる昨今だが、統計的に見ると局によってスタンスの違いがあり、こうした傾向を頭に入れて日々テレビを楽しむのも良いかもしれない。「TV Rank 番組編」検索サマリー機能を利用することで、単語たった一語の検索に始まる分析によって局ごとや番組ごとの違いを見出すことができる。
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著者:西垣内 渉(Wataru Nishigauchi)
一般社団法人未来のテレビを考える会幹事
元讀賣テレビ放送株式会社編成局マーケティング部
東京大学在学中にインターネットリサーチ会社に従事、2005年に読売テレビ入社。2008年にマーケティング配属となり、視聴率の分析をはじめ各種定量調査・定性調査を用いて視聴者像に迫った。2017年10月から大阪府四条畷市マーケティング監に就任。同志社大学・立命館大学・関西学院大学などで講演実績あり。