新垣結衣のタレントランク

久々の明るい話題だ。
5月19日、新垣結衣と星野源が、所属事務所を通して結婚することを発表した。
この一報は、様々なメディアを瞬く間に席巻した。先の見えないコロナ禍の重苦しい梅雨空のような世相に、突然キラキラと輝く光が差し込んできたような明るい話題である。それはまるで自分の家族の慶事に喜んでいるようなテレビの街頭インタビューに嬉しそうに答える人々の映像を見ても明らかだ。
”逃げ恥”で応援していたあの二人が、その物語の延長のようにリアルでゴールインする。こんなに人々から祝福される物語があるだろうか。
その二人は、今や日本のエンタメ業界を代表する若手のスーパースターなのである。これ以上の明るいニュースがあるだろうか。
これは冗談ではなく、日本の令和という時代を大きく方向づける歴史的なエポックになるかもしれない。そのぐらいに重要な”事件”に、今私たちは立ち会っているかもしれないのである。
かつて芸能界の超大物スターの結婚が一世を風靡した時代があった。
たとえば、石原裕次郎と北原三枝、日本の高度成長期が胎動する時代にあって、この二人の結婚劇がどれほど当時の日本人に夢や希望や活力を与えただろうか。あるいは三浦智和と山口百恵。時代を体現するような圧倒的な存在であったトップアイドルが突然マスメディアの表舞台から姿を消し、それと代わるかのように漫才ブームが勃興していく。それまで脇役であった芸人が、俳優や歌手と肩を並べる存在となり、やがてテレビにはなくてはならないものとなる。
では、過去のスーパースターたちの結婚と比べ、新垣結衣と星野源は令和という今の時代をどのくらい代表する存在なのだろうか。
今回は新垣結衣について、見てみよう。
 

 

図は、エム・データが提供するTalent Rankから20代、30代の女優についてまとめてみたものだ。
データは2021年の1-3月期、数値は1-3月の週平均である。
グラフの縦軸はそれぞれのタレントをTweetしたアカウントの数。Twitterでそのタレントがどのくらい話題にされているかの数値となる。グラフの上に行けばいくほど、そのタレントのバズ(Tweet)量が多いということになる。
横軸はそのタレントがテレビに露出した秒数。本人のテレビ番組出演秒数と、ニュースやワイドショーでそのタレントが話題にされた秒数を合計したものだ。グラフの右に行けばいくほど、そのタレントのテレビ番組露出量が多くなるということを表している。
各タレントの円の大きさは、そのタレントのTV-CM露出秒数だ。円の大きいタレントほど、そのタレントのTV-CM放映量が多い、ということになる。

さて、新垣結衣である。
2021年1-3月期の時点で、彼女はグラフの左上の象限にいる。この場所は、実は最近の新垣の定位置といってもいい場所だ。
では、この左上の象限の新垣の位置には、どのような意味があるのだろう。
それをご理解いただくには、各象限を分けている線の意味についてご説明する必要がある。たとえば、Y軸の2,610から横に伸びる青い線。これは、バズ量が他のタレントよりも抜きん出た存在であるスーパースターたちの境界線だ。タレントを、バズの面からスーパースターと一般タレントに区分けする境界線なのだ。
2021年1-3月期の時点で、Talent Rankには1,092名の20,30代女優が記録されている。この時期に関東の地上デジタル放送に露出したか、同時期に週250以上のアカウントからTweetされたことのある20,30代女優が1,092名ということだ。この1,092名の女優たちのTweet量の分布を、標準偏差という一般的な数学の手法で分析すると、週平均2,610アカウント以上からTweetされたタレントと、それ以下のタレントでは分布の仕方に違いがあるということが見えてくる。週平均2,610アカウント以下のタレントは大きな塊として平均を中心に均等に分布しているのだが、2,610アカウントを超えたタレントたちは均等な大集団から飛び抜けた存在として位置しているのだ。
この境界線、2021年1-3月期でバズ量が週2,610アカウント以下のタレントは一塊の分布として説明ができる。一般の女優としての大集団だ。だが、2,610アカウントを超えるタレントたちは女優の大集団から飛び抜けた存在として、女優全体から見て抜きん出たバズ量を持つ女優として、つまり他の一般的な女優とは違って一際話題にされる、目立って話題にされる女優である、ということが数学的に言える。この他よりも「抜きん出た」、「際立った」、「目立った」という意味合いがどれほど重要なものであるかは、エンタメ業界に関わるものであれば痛いほどわかるだろう。他と違う存在になることに、他と違う存在であることこそが、人気商売にあっては絶対の価値になる。際立った存在であることが数学的に証明できるのが、この週2,610アカウントのラインだ。一般女優とスーパースターを分ける境界線だ。
この2,610ラインを超える女優は43名いる。それは1,092名の20,30代女優全体のわずか3.9%だ。この狭い枠に入ることに、どれほどの価値があるかお分かりだろうか。たとえば、プライムタイムのドラマの座長の座は、いくつあるだろう。統計学は、その椅子に近い女優たちをこうやて可視化してくれるのだ。新垣結衣は、このバズランク(2021年1-3月期Twitterアカウント数ランキング)で第8位である。バズランクでベスト10の常連、それが新垣結衣だ。常に人々に話題にされている女優、それが彼女なのである。
 

次にX軸から縦に伸びるオレンジの線について見ていこう。これは、標準偏差によりテレビ番組露出量が他のタレントよりも抜きん出た存在であるかどうかを分ける境界線だ。タレントを、テレビ番組露出量の面からスーパースターと一般タレントに区分けする境界線なのだ。その境界は週平均テレビ番組露出秒数14,553秒、分に直せば242分、4時間と2分だ。毎週60分番組4本分以上の露出をしてはじめて、女優全体から見て抜きん出たテレビ番組出演量を持つ女優、つまり他の一般的な女優とは違って一際テレビに露出している、目立ってテレビで話題にされている女優である、と統計的に認識されるということになる。
この14,553ラインを超える女優は22名いる。1,092名の20,30代女優全体のわずか2.0%だ。バズのスーパースターよりもさらに狭き門だ。テレビ出演には時間という上限枠があるから、この象限に入るにはさらに厳しい競争となる。ちなみに1-3月期にバズとテレビ番組露出双方の境界線を越えた女優は7名、20,30代女優全体のわずか0.6%である。その顔ぶれはTV番組露出順に、綾瀬はるか、上白石萌音、広瀬すず、石原さとみ、北川景子、浜辺美波、高畑充希。彼女たちが、日本を代表する20,30代のトップ女優である。
 

では、最後に新垣結衣の凄さについて、まとめてみよう。
それは、図のタレント名につけた数値に表されている。これはバズレシオ(T Ratio)、つまりテレビ番組露出1秒あたりに換算した時のTweet量だ。タレントのTweetの全てがテレビ番組を見た結果発信されているわけではないが、そのタレントのテレビ番組露出とバズの量とのバランスを評価しようとした時に指標としてわかりやすいので用いている。
たとえばこのグラフの4象限の意味であるが、右上の象限は先程の日本を代表する7名の「トップ女優」、つまりテレビ露出もバズ量も他から抜きん出た圧倒的な露出力、話題力を持つ女優たちの象限であった。
では他の象限はどうだろう、たとえば、右下、この「トップ女優」象限のすぐ下は、「テレビ露出量はトップ女優並みだが、バズ量は一般的」な女優たちの象限、ということになる。テレビ露出量はトップ女優並みに圧倒的なのだが、彼女たちを話題にするバズの量はトップ女優ほどではない、つまりバズ量は女優として一般的ということになる。テレビ露出量の多さから見たら、もう少しバズがあってもいいかもしれない、と言えるかもしれないし、逆にバズの量から見るとテレビ露出量は少し多いかもね、ということが言えるかもしれない。つまりこの象限はそのような評価であるということだ。ここにいる女優たちのバズレシオを見ると0.03から一番多い戸田恵梨香で0.12という数値だ。
次に新垣結衣のいる左上の象限だ。ここは戸田恵梨香たちの象限とは逆、つまり「テレビ露出量は一般的だが、バズ量はトップ女優並み」な女優たちの象限、ということになる。わかりやすくいうと、「テレビに出ていなくても話題にされている女優」ということだ。先程の「テレビ露出量はトップ女優並みだがバズの量は一般的な女優」と「テレビに出ていなくてもトップ女優並みに話題にされている女優」、あなたならどちらになりたい?
人は見たものを話題にする傾向がある。露出が多ければ、リーチした人が増え、話題化されるチャンスは多くなる。逆に、露出量が少なくても話題にされ続けている女優、これにどれほどの価値があるかお分かりだろうか。
図を左下から右上に横切る斜めの赤い線、これが1,092名の20,30代女優全体のバズ傾向とテレビ露出傾向の相関をモデル化したラインだ。全体の相関傾向を説明してくれるラインと考えていただいていい。この右肩上がりの線は、テレビの露出が増えれば増えるほどバズの量も増える、つまりテレビ露出とバズ量には正の相関があることを表している。(繰り返すが、テレビを見てバズをすると言っているのではない、テレビ露出が多い女優はバズの量も多い傾向があると言っている)この傾向線の傾きは0.166、テレビ露出が1秒多くなるとバズはその0.166倍多い、ということを表している。タレントごとのバズレシオがこの0.166よりも高ければ、その女優は全体から見て話題効率が高い(話題にされやすい)女優であると言えるし、逆に低ければ話題にされにくい女優ということになる。
その意味で、新垣結衣の1.09というバズレシオが女優として驚異的なものであることがお分かりいただけるであろうか。テレビに露出しなくても、他のどの女優よりも話題にされている女優、それが新垣結衣の1.09というバズレシオの意味だ。これが彼女の凄さだ。
1-3月期でトップ女優象限で新垣より多いバズ量を持っているのは広瀬すず上白石萌音しかいないので、新垣が仮にテレビ露出量を増やして右上のトップ女優象限に入れば今のこのままのバズ量でも余裕でTop3入る。テレビ露出が増えると、基本的には赤線の0.166の相関傾向線に即した傾きでバズも上昇していくので、新垣のテレビ露出量が増えれば広瀬すずの0.46や上白石萌音の0.27を超えた、1.09に近い傾きでバズ量も急上昇することが期待できる。たぶん簡単に広瀬を超えた圧倒的な1位になるだろう。トップ女優たちを遥かに超えた存在になる可能性がある、それが新垣結衣の凄さなのだ。
バズレシオで新垣を凌駕する白石麻衣西野七瀬はアイドル属性も持ったタレントなのでバズ効率は他のアイドルタレントのように高く出てしまう。その意味では新垣や、同じような傾向を見せる橋本環奈、永野芽郁も、自身のアイドル的要素は女優としての強みでもある。ただ、アイドルと女優の決定的な違いは、ファン層の広さだ。今回は属性傾向まではお見せしていないが、アイドルはバズ効率が女優よりも高くなる反面、そのファンベースが狭いという傾向がある。わかりやすくいうと、男性にしか支持されない、20代にしか支持されないと言ったファン層の狭さだ。それは、ピンポイントのターゲティングをしたいマーケターにとってはアドバンテージでもあるが、女優としての強みは、アイドルとは逆にファンベースの広さにある。
たとえば今回の結婚で新垣は「30代の独身女性」というやや狭くなりがちなこれまでのプロフィールを「既婚女性」、「パートナーのいる大人の女性」といったより普遍性の高いものに変えていくことができる。これはとくにTV-CMキャスティングやマーケティングの世界で有利だ。たとえば、膨大な家庭用品のCMにキャスティングができるのだ。
データマーケティングのおかげで、タレントの起用方法も単なる印象ベースの選択からよりターゲットのプロファイリングやブランドのインサイトに基づいた幅広いものに変わってきた。
過去のスーパースターたちの結婚が、女優や女性アイドルにとっては場合によっては「引退」と紐付きがちだったものが、今は逆にリアルな女性たちの欲求やニーズに合わせて幅広く可能性を広げていけるものに変わってきた。リアルで等身大な女性たちの共感が、結婚によってさらに多く得られるようになるのだ。これは女優という職業から見れば大きな財産だ。結婚は、女優にとってはキャリアを大きく開いていくチャンスなのだ。
コロナの梅雨空に突然刺した眩い光、その明るさや、期待、幸福感、何よりみんなで見つめてきたという親近感が、この世紀のスーパースターたちの結婚報告を、多くの人が自分のことのように祝福している理由なのだろう。
あらためて、おめでとうございます。


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