【TV Rank FinTech 考察】第2回「テレビ指数が上昇すると株価も上がる?」
エム・データが提供する最新のクラウド型データサービス「TV Rank FinTech」を使ってテレビと株価の関係をご紹介するシリーズの2回目は、トレンドから見たテレビデータと株価についてである。
早速図1をご覧いただこう。
図1は上からアサヒグループHDの週あたりの「TV-CM指数」(オレンジの棒)、同じく「TV番組指数」(ブルーの棒)、三番目の折れ線はアサヒグループHDのTV-CM指数と番組指数を合成した「TV指数」の中期トレンド線(13週平均、緑のライン)と短期トレンド線(7週平均、ピンクのライン)である。今回はこのTVトレンド線と株価の関係がテーマだ。テレビでの露出量が変化すると株価にはどのような影響があるのか、TVデータのトレンドの変遷を追いながら見ていこう。
「TV-CM指数」とは、前回の第1回「テレビデータで株価を見る」)でご紹介したとおり2022年1〜12月の関東地区でのTOPIX構成全銘柄のTV-CM露出量の週あたり平均値を「1」として、各週の各銘柄のTV-CM露出秒数を指数化したものである。
これにより、私たちは各週に実施された各銘柄のTV-CMの規模感を端的に理解することが可能となる。たとえば、前回の記事でご紹介した2023年11月19日週のTV-CM銘柄ランキングでは、ランキング1位のアサヒグループHDのTV-CM指数は「16.73」であった。これはこの週にアサヒグループHDが実施したTV-CMはTOPIX構成全銘柄平均の「16.73倍」の規模であったことを意味している。さらにこの「TV-CM指数」は、TV-CM露出の全体のバランス感を掴む上でも有用だ。
たとえば、同じ週のランキングでは上位4銘柄のTV-CM指数が10以上、つまりTOPIX平均に対して10倍以上のTV-CM露出を行っていることがわかる。さらにトップ15銘柄は5倍以上であり、トップ30前後でも3倍以上の規模がある等々、このTV-CM指数の数値がどのように分布しているかの感覚を持つことで、各銘柄のTV-CM投資状況が市場規模から見てどのくらいのウエイトで実行されているのかがわかるわけだ。これは銘柄ごとのマーケティング投資の強気具合や相対的なインパクトを理解する上でわかりやすい指標であると言えるのではないだろうか。
「TV番組指数」も同様に2022年1〜12月の関東地区でのTOPIX構成全銘柄のTV番組露出量の週あたり平均値を「1」として、各銘柄の各週番組露出秒数を指数化したものだ。番組指数を使えば銘柄ごとの番組露出状況もTV-CM指数同様TOPIX平均に対して何倍ぐらいであるのかがわかるわけだ。このTV-CM指数とTV番組指数を各週の株価と比較することで、本稿のテーマであるテレビデータと株価の関係も見えてくるはずだ。
図1の上から3番目の折れ線グラフは、アサヒグループHDのTV-CM指数とTV番組指数を合成した「TV指数」の中期トレンド線(13週平均、緑のライン)と短期トレンド線(7週平均、ピンクのライン)である。
TV-CM指数とTV番組指数を合成した「TV指数」とは、2022年1〜12月の関東地区でのTOPIX構成全銘柄のTV-CMとTV番組露出量を合わせた値の週あたり平均値を「1」として、各銘柄の各週のTV(CM+番組)露出秒数を指数化したものだ。その銘柄がTV-CMとTV番組を合わせてどのくらいテレビに露出したか、それはTOPIX平均に対して何倍であったのかがわかる指標だ。もちろんTV-CMだけのTV-CM指数、TV番組だけのTV番組指数を用いて株価と比較してみるのもいいが、今回はTV-CMとTV番組の合成指数であるこのTV指数を使って株価との関係を見てみよう。そこで出てきた傾向から、TV-CM単独、あるいはTV番組単独で再検証をしてみるのも面白いかもしれない。
さて、このTVトレンドの折れ線グラフであるが、ピンクの短期トレンド線が緑の中期トレンド線を上抜けている箇所がいくつかあるのがお分かりいただけるであろうか。ピンクの線が緑の線の上にある、ピンクと緑の線の上下関係が入れ替わる、ピンクの線が緑の線を交差して上に突き抜ける、まさにその上抜ける交差が発生した瞬間、それを前回の原稿ではGX(ゴールデンクロス)と呼んでいた。前回ご紹介したTV-CM銘柄ランキングで「CM-GX」として赤い星印のシグナルで示した銘柄が、まさにその週にこのGXが発生した銘柄である。
これは何を意味するのか。
短期TVトレンド線(7週平均、ピンクのライン)が中期TVトレンド線(13週平均、緑のライン)の上にある状態とはどのような状態だろう。短期TVトレンドとはその銘柄のTV(CM+番組)露出の7週(約1.5ヶ月)平均値である。最近1ヶ月半でその銘柄がTVに露出した量の週あたりの平均値である。「ここ1ヶ月半でこの銘柄は週あたりこのぐらいテレビに出てたよね〜」の数値である。
その数値が、中期TVトレンド線(13週平均、緑のライン)の上にある、つまり上回ると言うことは、「ここ1ヶ月半でこの銘柄はこのぐらいテレビに出たよね〜(=短期TVトレンド線)」の量が、「ここ3ヶ月(13週)でこの銘柄はこのぐらいテレビに出たよね〜(=中期TVトレンド線)」の量よりも多い、つまり「ここ1ヶ月半」のほうが「ここ3ヶ月」よりも多い、そう「なんかこの銘柄最近よくみるようになったよね(ここ1ヶ月半のほうがここ3ヶ月よりも多いよね)」という状態を表している。ピンクの線が上にあれば「この銘柄最近テレビでよくみるよね」状態、下にあれば「この銘柄前よりテレビで見なくなったよね」状態、と言うことである。
「最近テレビでよくみる」ということは最近話題が多くなっている、それはもしかしたらたぶんTV以外の媒体、ネットでも話題が多くなっている可能性がある銘柄ということだ。話題が少ないか無い銘柄と話題が多い銘柄とでは、どちらの方がより株価が反応するだろう。前回の原稿で株価はその銘柄の業績に対する期待値で構成されると言った。話題が多い銘柄と少ない銘柄では、どちらの業績への期待値が上がるだろう。ここまで書けば、アサヒグループHDのグラフの一番下にある赤い線(各週の株価終値)がなぜこのような動きをしているのかご納得いただけるのではないだろうか。
このグラフで時に目を引くのが、23年1月23日週から続くTVトレンドの上昇期に株価も大幅に上昇しているところだ。「この銘柄最近テレビでよくみるよね」状態の期間に「この銘柄の株価最近上がってるよね」状態が発生しているのだ。この期間のアサヒグループHDの株価の上昇率は33.8%にもなる。ピンクの線であるアサヒグループHDの短期TVトレンド線が大幅に上昇している期間に、それに反応するかのように株価もまた連続して高騰している。TV露出に代表される企業活動の拡大が、株価の上昇となって現れているようにも見えるのだ。この時期のTVトレンド上昇期の主役はTV-CM指数、そうTV-CMの拡大だ。アサヒグループHDのTV-CMが同銘柄の株価を押し上げたのだろうか?
たしかに、その銘柄のTV露出の拡大は、あくまでその企業の活動の一部を反映しているのに過ぎない。だが、TV-CMとTV番組でその企業の情報が拡大するということは、その企業の営業活動、顧客の反響、ニュースや話題なども拡大していると言えるのではないだろうか。それだけの企業活動の変化が株価に反映されないほうがむしろおかしいのかもしれない。
次回は、アサヒグループHDのこのTVトレンドの拡大期に実際何が行われ、それが同銘柄の株価に対してどのような影響があったのかを、テレビデータを深掘りしながら見ていこう。
つづく
シリーズ連載「TV Rank FinTech 考察」
第1回 「テレビデータで株価を見る」
第2回 「テレビ指数が上昇すると株価も上がる?」
第3回 「TV-CMは株価を上げるか?」
第4回 「テレビ指数に株価が反応する条件とは?」
第5回 「タレントは株価を上げるか?」
第6回 「CMクリエイティブで株価を上げる方法」
第7回 「テレビトレンドと株価の関係」
第8回 「TV-CM効果と株価の関係」
第9回 「TV-CM効果と株価の関係〜2」
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著者:梅田仁 | Jin Umeda
ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)所長
iPhone、iPod、iTunes、Mac、Apple TV、Apple Storeのシニア・マーケティング・プロデューサーとして、Apple(AAPL)を時価総額世界一のブランドに育て上げることに貢献。iTunesで取り扱う内外のエンターテインメント・コンテンツ、アーチストの需要トレンド、視聴者の嗜好パターン分析を通してプラットフォームメディアビジネスにも精通。2013年、ライフログ総合研究所を設立、TV Rank、Talent Rankサービスを展開中。著書:「売れない時代に売る新常識」出版文化社、2011