【TV Rank FinTech 考察】第3回「TV-CMは株価を上げるか?」
エム・データが提供する最新のクラウド型データサービス「TV Rank FinTech」を使ってテレビと株価の関係をご紹介するシリーズの3回目は、TV指数の上昇期と株価の関係について考察する。
前回の原稿では、TV-CMやTV番組でその銘柄の話題が拡大すると株価にも影響があるのではないかというお話をした。今回は、実際にその銘柄のTV露出の拡大期に何が起きているのかを明らかにすることで、株価との関連を見ていこう。
前回の第2回「テレビ指数が上昇すると株価も上がる?」で、23年1月23日週から続くTV指数の上昇期に株価も大幅に上昇しているとご紹介した。実際この期間のアサヒグループHDの株価の上昇率は33.8%にもなる。TVで露出量が増えたこの時期にその銘柄の株価もあがっているように見えるのだ。もちろんこれは二つの独立した事象がたまたまデータを並べると関係があるように見えるだけなのかもしれない。ただ、TVでの情報量が増えたということと、その銘柄の株価に影響を与えるような事象が発生していることの間に全く関係がないとも言い切れないのではないだろうか。
考察を深めるためにも、このTVトレンドの上昇期に何があったのかデータを深掘りしてみよう。
図1は、23年1月23日週からのTVトレンドの上昇期前後のアサヒグループHDのブランド別のTV-CMトレンドだ。前回、この期間のTV指数上昇の主役はTV-CM指数、そうTV-CMの拡大であったとご紹介した。この図は、その期間のアサヒグループHDのTV-CMをブランド別に集計したグラフである。TV Rankの元となっているエム・データのTVメタデータではTV-CMで紹介された商品や出演しているタレント、映像内容、スーパーの文字情報やナレーションの音声情報、BGMの楽曲情報などのメタ情報が網羅的に記録されており、その時期にどのようなCMが放映されたかの深掘りも可能となっている。ここではこの時期に放映されたTV-CMをブランド別に集計している。TV番組指数の元となる番組データでも同様なことが可能だ。
TV-CMをブランド別にすると何が見えるのだろう。
この図1でご紹介した全期間を通してTV-CMが放映されているのは2ブランド、グレーのアサヒスーパードライと黄色のアサヒ生ビールである。この2ブランドは毎週継続してTV-CMの露出がされており、両者はアサヒの看板ブランドと言ってもいい存在であることがわかる。両ブランドとも毎週継続してCM露出をしているが、黄色で示したアサヒ生ビールがスーパードライ以上のシェアを与えられている週もあり、スーパードライ偏重と思われがちだった同社のマーケティング・ポートフォリオはすでに変化していて、この2大ブランドのバランスによって日本のビールカテゴリーを抑えるのだという同社の意志を感じさせる配分になっているように見える。そう、このようにTV-CMの露出配分は、そのままその企業の経営方針を表していることが多い。CMデータを丹念に見ることで、その企業の経営の意思を探ることも可能なのだ。
では、TV-CMの拡大期には何があったのか。
図1のグラフを見ると、23年3月6日週から5月1日週にかけてのCM指数(TV-CM露出)の拡大はこのベースラインのビール2ブランドに加えて、ビール以外の商品カテゴリーのミンティア、十六茶、カルピス、ウィルキンソンといった季節ブランドが随時投入された結果であることがわかる。
図2をご覧いただこう。これは、同じTV-CM指数の内訳をTVメタデータの分類情報をもとにしてTV Rank上で商品カテゴリー別に表示したものだ。同じデータを前の図はブランド別、あとの図は商品カテゴリー別で表示している。
ブランド別で見ていたTV-CMの内訳を商品カテゴリー別にすることで、事業単位で見た企業の経営方針がどの時期にどの商品カテゴリーにどの程度注力しているのかが簡単にビジュアル化できてしまう。他の商品カテゴリーと比べてどの程度のウエイトレベルなのかが可視化されるので、今後の業績への期待値としての参考データにもなるはずだ。
またこれを銘柄単位ではなくカテゴリー単位で集計させれば、カテゴリー(セクター)ごと銘柄ポートフォリオも簡単に表示させることが可能だ。この辺りはセクターの銘柄動向分析にも使えるので、また別の項目を設けて追ってご紹介していこう。
アサヒグループHDの話に戻ろう。
株価上昇期と時期的に連動したアサヒグループHDのTV-CM指数の急拡大の背景は、ベースラインのビール2ブランドに加えて複数の事業カテゴリーでの複数の季節ブランドが短期集中投入された結果であることは分かった。経営レベル、投資家目線で見れば、複数事業カテゴリーでのTV-CMに代表されるマーケティング施策への短期集中型の経営資源の急配分に株価が敏感に反応した、ということだろうか。しかし、季節ブランドの販売促進であればそれは例年のことであり、株価としては今季業績見通しとしてすでに折り込み済みで上昇率が33.8%にもなるほどの敏感な反応はしないのではないだろうか?
だが今回のアサヒグループHDのTV-CM指数の上昇に関してはすこし事情が異なっている。実は、TV指数と株価の関係をさらに興味深く説明する新たなデータが存在するのだ。それは何か?
次回はこの新たなデータについてご紹介していこう。
つづく
シリーズ連載「TV Rank FinTech 考察」
第1回 「テレビデータで株価を見る」
第2回 「テレビ指数が上昇すると株価も上がる?」
第3回 「TV-CMは株価を上げるか?」
第4回 「テレビ指数に株価が反応する条件とは?」
第5回 「タレントは株価を上げるか?」
第6回 「CMクリエイティブで株価を上げる方法」
第7回 「テレビトレンドと株価の関係」
第8回 「TV-CM効果と株価の関係」
第9回 「TV-CM効果と株価の関係〜2」
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著者:梅田仁 | Jin Umeda
ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)所長
iPhone、iPod、iTunes、Mac、Apple TV、Apple Storeのシニア・マーケティング・プロデューサーとして、Apple(AAPL)を時価総額世界一のブランドに育て上げることに貢献。iTunesで取り扱う内外のエンターテインメント・コンテンツ、アーチストの需要トレンド、視聴者の嗜好パターン分析を通してプラットフォームメディアビジネスにも精通。2013年、ライフログ総合研究所を設立、TV Rank、Talent Rankサービスを展開中。著書:「売れない時代に売る新常識」出版文化社、2011