【TV Rank Fintech 考察】第8回「TV-CM効果と株価の関係」
エム・データが提供する最新のクラウド型データサービス「TV Rank FinTech」を使ってテレビと株価の関係をご紹介するシリーズの8回目は、TV-CMの効果と株価の関係についてだ。
第4回「テレビ指数に株価が反応する条件とは?」でテレビデータに株価が反応する条件として次の3点をご紹介した。
・「テレビ指数」が上昇期(テレビトレンドが上昇期)である
・「TV-CM指数」が前年同期比に対してプラスである
・「TV番組指数」が前年同期比に対してプラスである
前回はこの条件を満たした銘柄として財務会計システム「勘定奉行」でお馴染みのオービック(TYO:4684)をピックアップし、テレビ指数の推移と同じ時期の株価の関係についてご紹介してきた。
オービックは2023年に大きく二つのテレビトレンドの上昇期があり、一回目は2023年1月2日週から23年2月20日週までの8週間、二回目は23年5月1日週から始まり途中2週の下降期を挟んで23年10月2日週まで続く23週間、どちらもTV-CM指数がブレークの目安である「TV-CM指数=1」を複数の数で連続して越えたことがテレビトレンドの上昇要因であった。
このテレビトレンドの上昇を追いかけるようにして株価も上昇し、一回目のテレビトレンド上昇期では5週続いた「TV-CM指数=1」越えの最終週までに株価も8.5%上昇、年初来の最高値を記録した。23週続いた二回目のテレビトレンドの上昇期でも16週で「TV-CM指数=1」越えを記録、TV-CM指数に釣られるようにして上昇した株価も18週目には2023年のオービックの週足最高値となる25,310をつけた。テレビトレンドの上昇が株価の上昇に先んじて現れ、それを追いかけるようにして株価が高騰するケースが見られたのである。テレビ指数の上昇が株価の先行指標の役割を果たしていたのだ。
オービックのテレビ指数の変化を深掘りすると、そこにはマーケット的に好材料なテーマがあったこともわかった。2023年のオービックのTV-CMと番組のメタ情報を見ると、その内容は23年10月1日から開始される「インボイス制度」にフォーカスをあてたものであった。特にTV-CMは同社の「勘定奉行」が”インボイス対応”であることをストレートに訴える内容で、放映されたタイミングもまたそのテーマを強調するのに最適であった。一回目と二回目のテレビトレンド上昇期のTV-CMタイミング、つまり「TV-CM指数=1」を越えたTV-CMの”ブースト週”は、1月からの新会計年度のスタートに合わせた時期、5月のインボイス対応「勘定奉行クラウド」の発売時期前後、そして10月の新制度開始直前に合わせた時期となっていたのだ。TV-CM、番組の内容とその時期が最適化され、結果的に株価の高騰にも繋がるビジネスの拡大を効率的にサポートするものとなっていたのである。
もちろん、TV-CMの一義的な目的は株価誘導ではなくマーケティング、つまりここでは「勘定奉行クラウド」の新規契約の獲得と既存顧客へのアップセルにある。膨大な販管費を注ぎ込むTV-CMのような企業活動の内容とタイミングが最適化されていることは当然であり、であるからこそテレビでの露出量を銘柄ごとに数値化し記録したテレビ指数は、結果として銘柄ごとの日々の企業活動量、情報量を逐次記録した指標として、株価の形成に先行する銘柄別の非財務統計資料として機能するものとなっていたのである。
では、テレビ指数が上昇すれば株価は常に上がるのか?テレビ指数を見ていれば株価を予測することが可能なのか?
ご紹介したオービックのケースではたしかにテレビ指数の短期、中期トレンドのゴールデンクロスをきっかけにして株価も上昇する形となっていた。そもそもこのテレビ指数の短期、中期トレンドのゴールデンクロスとは、その銘柄のテレビに露出した情報量が過去と比べて拡大し始めたことを表している。その背景には企業の活動量そのものの活性化があり、その企業活動活性化の結果として実ビジネスやマーケット、つまり実体経済にも様々な変化がもたらされるわけだ。テレビ指数に集約された企業の活動量、情報量が上昇すれば、結果として実体経済にも何らかの影響があることは確かだろう。テレビ指数のトレンド転換点はたしかに株価の上昇の先行指標として機能しそうだ。
ではテレビトレンドが上昇し続ければ、株価も上がり続けるのだろうか?
実は、ご紹介したオービックのケースでも株価の上昇限界があることがわかる。
TV-CMはマーケティング目的に行われると書いたが、マーケティングの観点から見たTV-CM効果、つまりTV-CM目的から見たTV-CM効率は、それを一定度以上に継続すると低下し始めることが知られている。同じCMを毎日見せられて、あなたは常に新鮮な気持ちでそのCMに接することができるだろうか?
情報には鮮度があり、刺激には慣れが伴い、同じ情報刺激の繰り返しに対しては脳は飽きてしまうようになっている。重複した情報の処理を脳はスキップしてしまうのだ。私たちは常に新しい驚きを本能的に追い求めてしまう生き物なのだ。
ここでご紹介したオービックのTV-CMでも、その目的である契約率は、同じTV-CMを流し続けた場合低減していく傾向がある。
もちろん様々なテクニックを駆使して効率を延命させることは可能だ、だがそれはあくまで延命措置である。鮮度を伴う情報の死はいづれ避けられないものなのである。
つまり、テレビ指数では上振れを見せていても、その効率が続かなくなる時が訪れる。
このテレビ指数の効率低減、つまりテレビの放映事後効果を検証するにはテレビ指標とは別の指標が必要となる。できればそれはテレビ媒体から得られるデータとは別の起源から発生するデータが望ましい。
今回、テレビ指数の効果低減を見るために採用した新たな指標、それは「検索」だ。
あなたは新しい情報やニュース聞いた時、何をするだろう?
それが未知のものであった場合、自己の認識と違うものであった場合、その情報が自分の仕事やプライベートに有益なものであった場合、そんな時はすぐに手元のスマホで「検索」しないだろうか?
そう、この検索するという行為が、情報鮮度の測定に極めて有効なのだ。
テレビ指数はその銘柄に関わる情報量を「テレビという測定器」を使って定量的に計測した指標である。ネット発や口コミ発やイベント発などソースが様々に異なる情報を、それらがある情報チャネルを通過した時にその量を測定することで情報の規模を定量化する。テレビ指数は日々生まれる情報の測定器として「テレビ」という媒体を活用したものだ。テレビ指数を使えば、その銘柄の情報量が増えたのか、減ったのかがわかる。テレビレベルの情報の発生、拡大の程度を数値化したものがテレビ指数である。
発生、拡大した情報の影響度を知りたければ、”影響”に関連した行動の数値を使用すればいい。情報の発生であるテレビとは異なる、発生した情報に影響された人々の行動を起源としたデータを活用すればいい。今回、その目的のために採用したのが「検索」である。「ネットでの検索」という測定器を使ってすでに集計され公開されているデータとして、今回は「Googleトレンド」の検索指数を使用してみる。テレビという測定器と、Google検索という測定器を使って、銘柄ごとの情報量と検索量という二軸を用いた分析を行うのである。
図1は、前回ご紹介したオービックのテレビ指数と株価のグラフにGoogleトレンドによるオービックの検索指数を加えたものだ。Google検索を通して「オービック」というワードが検索された回数を指数で表している。テレビ指数との比較をするにはとても相性の良いデータだ。
オービックのインボイス対応というTV-CMとTV番組での情報の発生と拡大の結果、オービックに対する検索量はどのように推移したのか。その情報に対する反応はどの程度あったのか、そしてその反応はいつまで続いたのか。それらをテレビでの露出量を表すテレビ指数とGoogle上で検索された回数を表す検索指数の二つの軸で評価し、分析してみるわけである。
テレビ指数は、テレビレベルで取り上げられる情報の発生、拡大、減少を表している。
検索指数は、情報の関心度にあわせて人々がスマホやネットで検索をした頻度をあらわす。
テレビでの情報量が拡大し続け、ネットでの検索量も拡大し続ければ、その情報の興味関心度は持続しながら拡大しているということになる。情報量が拡大しているのにある時点で検索量が低下すれば興味関心度が失われていると想定できる。あるいは情報量が増えているのに検索量が反応していなければ、人々はその情報に興味関心がないのだと推測できる。
与えられた刺激に対するリターン、TV量に対する検索反応量、テレビ指数と検索指数というこの二つの軸を使うことで、情報の鮮度や賞味期限がわかるのだ。
株価はその銘柄の人気投票であるとよく言われる、情報に対する反応が高い銘柄と低い銘柄で株価がどのように反応するのか、テレビ指数と検索指数は株価形成に無関係なのか、その答えは説明するまでもないだろう。
ただ検索や口コミのようなネットデータ、いわゆる「消費者生成型」といわれるデータの扱いには注意が必要だ。
それは「ノイズ」である。デジタルデータの取り扱いについて様々な警鐘があることはご存知だろう。そしてここにもテレビ指数と検索指数というこの二つのデータを併用して使うことのメリットがある。検索データだけを使用した場合、たとえば急激な検索量の拡大があった時、それはスパムやロボットのような人為的なノイズなのか、意図的な操作なのか、自然発生的なものであるのかの判別がむづかしい。
だがテレビ指数と検索指数を併用することで、たとえば検索側の数値の急拡大が異常値なのかテレビ側の情報量の拡大を受けたものなのかの説明がつく。テレビ指数を併用することで、検索指数の数値のばらつきが検証できるようになるのだ。
検索指数を用いることで、銘柄ごとの情報の反応効率がわかり、上昇の持続性が検証でき、反応限界が推測できる。そしてその結果としての株価の形成が、より説明しやすくなる。
次回はいよいよ、実際のオービックのテレビ指数と検索指数の数値の変化を見ながら、オービックのテレビトレンドの拡大期と株価の高騰期に何が起きていたのかを明らかにする。
つづく
シリーズ連載「TV Rank FinTech 考察」
第1回 「テレビデータで株価を見る」
第2回 「テレビ指数が上昇すると株価も上がる?」
第3回 「TV-CMは株価を上げるか?」
第4回 「テレビ指数に株価が反応する条件とは?」
第5回 「タレントは株価を上げるか?」
第6回 「CMクリエイティブで株価を上げる方法」
第7回 「テレビトレンドと株価の関係」
第8回 「TV-CM効果と株価の関係」
第9回 「TV-CM効果と株価の関係〜2」
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著者:梅田仁 | Jin Umeda
ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)所長
iPhone、iPod、iTunes、Mac、Apple TV、Apple Storeのシニア・マーケティング・プロデューサーとして、Apple(AAPL)を時価総額世界一のブランドに育て上げることに貢献。iTunesで取り扱う内外のエンターテインメント・コンテンツ、アーチストの需要トレンド、視聴者の嗜好パターン分析を通してプラットフォームメディアビジネスにも精通。2013年、ライフログ総合研究所を設立、TV Rank、Talent Rankサービスを展開中。著書:「売れない時代に売る新常識」出版文化社、2011