【TV Rank Trend-Spot】テレビの可能性~テレビは地域活性化をどのように伝えるか



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図1)愛媛県内各市町村のテレビ露出状況(NHKを含む関東エリア放送)を示すデータ





今回は、テレビというメディアの面白い使い方をご紹介する。


図1は、愛媛県の各市町村がNHKも含めた関東エリアのテレビでどの程度紹介されていたかを示したデータだ。これは日本全国の都道府県別に見ることが可能で、たとえば地方自治体や地方の企業の関係者の方などが、地元の情報が関東や関西、中京などの都市圏でどのように紹介されているのかをご覧いただくのに大変便利なものとなっている。

この愛媛県の例でどのようなことがわかるのか、ご覧いただこう。


画面の上段に都道府県の選択肢があるが、今回はここで愛媛県を選んでいる。もちろん任意の都道府県を選ぶことが可能だ。期間は2024年1月1日から、この原稿執筆時点では最新の2025年11月2日まで。期間を指定していただければ、任意の期間のデータを見ることができる。左上のグラフは愛媛県内の市町村別の放送回数。指定した期間に各市町村別の情報がそれぞれ何回関東エリアで放送されたのかがわかる。愛媛にいながら東京で地元の情報がどのぐらい紹介されたのかがわかるのだ。


そしてここからが面白いのだが、この県内の市町村別の集計で、自治体別の放送情報量の差がわかる。どういうことかというと、愛媛県の市町村で最も関東のテレビに取り上げられたのが松山市、松山は約50万の人口を擁する県内最大の都市で、道後温泉をはじめとした国内有数の観光地であり当然の結果であると言える。2位の今治も人口規模で約15万と県内二番目、今治タオルなど情報にも事欠かない観光地である。

興味深いのはここからだ、人口規模で言うと約10万で3位、4位の新居浜市、西条市は、テレビ露出量ではそれぞれ7位と6位、人口約8万で5位の四国中央市がテレビ露出量では12位と下位となっている。ここで一点補足をさせていただくと、このデータはテレビの「市区町村別SPOT Rank」で、SPOT、つまり施設や店舗、観光地、宿泊施設などのスポットのランキングとなっている点だ。なので単純な人口規模とは別に人気話題スポットの有無で大きく自治体のランキングも変動してしまう。


その顕著な例が、愛媛県スポット・ランキング4位の「伊予郡砥部町」だ。愛媛圏外の方にはなかなか読みにくいこの町名、私も読めなかった(笑)。この砥部町、人口は約2万人で県内では12番目、この県内人口12番目の砥部町が、関東のテレビでは愛媛県で4番目に多く紹介されていたのである。面白いと言ったのは、このようなポイントだ。


つまり、人口規模や経済力、生産力などの従来型の統計分析とは別に、ここに見られるような「情報力」といった観点で各自治体を評価することが可能なのである。当然、人口規模12番目の自治体が、関東では県内で4番目の話題になっている自治体であると言う事実は、興味を引くところだろう。当然、なぜ、という疑問が湧いてくるはずだ。その理由次第では、それぞれの地方自治体や地方の企業が抱える課題の解決策やヒントにもなるかもしれない。このようなデータを見ていくことで、得られる示唆も大きいはずだ。何しろ、他では見ることのできない一般には公開されていないデータであるので、その価値は大きいのではないだろうか。


さてこの砥部町、なぜこれほど関東のテレビで取り上げられたのかと言うと、その答えはこの期間に最も砥部町内で取り上げられたスポットである「愛媛県立とべ動物園」にある。改めてまたどこかでお話しさせていただけるかと思うが、この「動物園」というのは、情報発信拠点として極めて重要なのである。全国の動物園関係者の方で予算や存続等でお困りの方がいらっしゃればぜひお声がけいただきたい。たぶん、日本社会は動物園の社会的意義を十分に理解できていないと思う。入場者や来園者の満足度、収益などももちろん重要だか、動物園の社会価値はそれだけではない、この「愛媛県立とべ動物園」の場合は、その情報発信力が著しく傑出していたのである。


どのようなことか。

覚えておられる方も多いかと思うが、実はこの時期、札幌の円山動物園で飼育されていた1歳の雄ライオン「クレイ」が、実は雄ではなく雌だったということで大きなニュースになった。そしてその話題の「クレイ」が、2024年の5月にこの「とべ動物園」に移ってきたのである。これで地元は大騒ぎ、東京のニュースにまで取り上げられ扱いは全国区に。ライオンの移動など普段はニュースにならないのだが、この雄から雌になった(?)クレイのおかげで「とべ動物園」の情報力は底上げされた形となったのである。


もちろん、クレイの話題がなくても「とべ動物園」は普段から話題に事欠かない施設であった。これもご存知の方は多いと思うが人口飼育に成功したホッキョクグマと飼育員のエピソードをはじめ、ジャガーやプレイリードッグ、アシカ、カンガルーの赤ちゃん誕生、カバの歯磨き、こどもの日の賑わい、マレーバクの繁殖に成功など、1年を通して全国区の情報をこれでもかと発信し続ける魅力的な拠点なのである。なにより、動物園は動物や子供たちの話題ということで内容が明るい、つい伝えたくなる情報が次から次へと発信されてくるのである。

動物園というのは「明るい話題の発信拠点」として、とくに地方にあっては極めて重要で、魅力的な施設なのである。この情報発信力を集客や、それこそ移住などにつなげられれば、その価値もさらに増していくだろう。


そしてこの地域の活性化という点で注目なのが、愛媛県スポット・ランキング5位の「大洲市」である。

この大洲市、県内人口ランキングでは4万未満の7位なのだが、人口規模以上の情報発信力となり5位となった。その理由は大洲市内で最も紹介されたスポットである「大洲城」にある。

日本の都市は明治に至るまで封建領主の居城である「城」を中心に形成されてきた。そのため、地理的にも都市の中央には城があり、復元や城址公園も含めれば、特に地方都市の場合は「城」がその町の中心スポットである場合が多い。それこそ世界遺産に登録されるような城もあれば今は城址が県庁として利用されている例など、城郭や歴史マニアに限らず門前の武家町を起源として今は繁華街として発展してきた都市空間は、その都市の中心領域であることが多い。

ただここでも課題なのは、少子化や高齢化、人口減少にあって、かつての城を中心とした観光地だけではその魅力が維持しづらくなっていることだ。つまり、歴史や建築だけでは新たな人を呼び込んだり、人口流出対策の決め手にはならなくなってきているのである。


その課題の一つの答えが、この愛媛県大洲市の「大洲城」である。

県内人口7位の大洲市が愛媛県スポット・ランキング5位になったのはなぜか。その理由は、歴史施設としての城をそのまま維持しながら、それを地域活性化の拠点にしたことにある。歴史という大きな普遍的な価値をそのままに、そこに現在の少子化、高齢化、人口減少といった課題を解決するための仕掛けを盛り込んだのである。これが全国区のテレビにも取り上げられるだけの情報価値を生み出した。そしてその結果大洲市は2025年の「第15回地域再生大賞」(地方新聞47紙、日本放送協会、共同通信社が創設)準大賞を受賞したのである。


受賞理由を「第15回地域再生大賞」の公式ホームページから引用させていただこう。


準大賞:キタ・マネジメント(愛媛県大洲市)

城下町再生、観光の街に

城下町の風情が残る街並みを守ろうと、空き家となった歴史的価値のある古民家を持ち主から借り受け、改装して分散型ホテルの客室や店舗への活用を進める。再生した建造物は30棟を超えた。観光の街としてにぎわい、新規出店や雇用の創出にもつながった。

高台にある大洲城の木造復元天守に泊まる「キャッスルステイ」を2020年に開始。宿泊費は高額だが、入城のセレモニーをはじめ、非日常の城主気分を味わえると話題を呼び、大洲の知名度向上に貢献した。

空き家再生により、傷んだ屋根瓦の落下といった事故の防止や、火災のリスク減少など、街の安全も向上した。

『第15回地域再生大賞 受賞団体』公式サイト
https://chiikisaisei.jp/15th-awards




日本のたいていの地方都市にはその中心に「城」がある。

その城を単に施設として維持管理するのではなく、地域を活性化させる拠点として進化させたのである。それは城下町としての記憶を呼び起こさせ、そこに集う人々に新たな役割を与えた。城という点ではなく、地域という面を、ハードウエアとしての施設ではなく、そこに集う人々の交流を促す新たのインフラとして再構築してみせたのである。


その結果はこのスポットデータからも読み取れる。

「大洲城」は従来の「お城巡り」、「城下町」といった文脈も残しながら、「空き家問題」や「城泊」、「意外な宿泊施設」、「仕掛け人」、「地域活性化」といった新たな情報価値を付加して唯一無二のスポットとして紹介されているのである。

また受賞理由にあるように、その魅力は「城」だけに留まらない。「NIPPONIA HOTEL」は愛媛フレンチの匠のレストランとして紹介され、他の宿泊施設や博物館、観光施設なども併せて取り上げられているのである。新たな魅力を持った城が新しい町の拠点として町全体を巻き込んで活性化することに成功したのだ。


いかがだろう。

テレビは音声と映像が絶え間なく流れ、情報は常に消え去っていくように感じられるが、情報の発信元に意志があり、繋がりがあれば、テレビもそれを素直に取材し、その価値を増幅することができるのである。しかも、地元にいて地元の魅力を増すことに集中していれば、テレビはそれを取材し都市圏で拡散してくれるのである。冒頭に申し上げたテレビの面白い使い方はこれだ。

地方で全国レベルの面白いことをぶち上げれば、テレビはそれに食いつくのである。

小さい町だからと言った遠慮は無用だ、魅力的であればあるほどテレビはそれを評価し全国に拡散してくれる。それこそがテレビの魅力だ。

課題を抱えた地方自治体や地方企業の皆さん、皆さんの悩みが取り上げられ全国放送で解決されていく姿を夢見て、ぜひとんでもない企画をぶちあげてほしい。テレビはいつも面白いことを求めているのだから。


今回の記事で紹介した内容は、「TV Rank TREND-SPOT」にて確認できます。

「TV Rank TREND-SPOT」とは、TV番組で紹介されたスポット(飲食店・宿泊施設・観光施設・ランドマーク 等)の紹介状況をTableau上で可視化できるデスクトップツールサービスで、スポット(各施設)のTV紹介状況が確認でき、都道府県・市区町村別のスポット紹介件数の確認や隣接またはベンチマークしている他エリアとの比較、経年変化やトレンドウォッチなど、以下のような業務にてご活用いただけます。


●「自治体(都道府県・市区町村)での観光政策やPR施策等のプロモーション」
●「エリアマーケティグや商圏分析」
●「地域創生・活性に向けたコンサルティング・プロモーション」
●「観光地に向けた鉄道・バス・飛行機等の交通マーケティング活用」
●「不動産価値シミュレーション、賃料変動予測、REIT(不動産投資)」
●「生成AIによるデジタルヒューマン(アバター)、多言語翻訳などのインフォメーション・観光支援」


お問い合わせはコチラのお問い合わせフォームからお願いいたします!
また「TV Rank TREND-SPOT」のプレスリリースはコチラからご確認できます。


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