東日本大震災:福島県双葉郡10年のテレビ報道

東日本大震災から10年が経とうとしております。

福島第一原子力発電所事故の影響により避難を余儀なくされた地域は「福島12市町村」(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)として、これまで復興についての議論がなされてきました。

筆者はこの中の浪江町という漁港の町出身で、当時は東京の大学へ通っていたので、見慣れた町が波に流されたり、牛が横断歩道を渡ったりするのを、テレビの映像を通して見ていました。

この地域一帯は福島第一原発の影響から全面的な避難指示解除には至っておらず、居住率も低く、今なお復興が進んでいるとは言えない状況です。
 

実家跡地。放射能被害があり生活基盤を構築できないため、数キロに渡り雑草が生い茂っています(左:2002年撮影/右:2019年撮影)。
 

東日本大震災10年を前に、福島12市町村の特に筆者が住んでいた浪江町、そして福島第一原発のある双葉町、大熊町という、隣接している3つの町を中心に、エム・データのTVメタデータを使ってこれまでの10年のテレビ報道を振り返ってみようと思います。(他の地域等のデータのご用命はお問い合わせください!)

※本ブログ記事はTVメタデータを活用したケーススタディとして、多くのニュースや話題から、個人の経験に則りそれらを選別しファクトとしてまとめたものです。(特別な分析や特定の意見を述べるものでありませんので予めご了承ください。)
 
 

1. はじめに

それでは実際に報道時間の推移を見ていきましょう。

今回使用するTVメタデータは、関東キー局で放送された「ニュース/情報・ワイドショー番組」を対象といたします。
 

報道時間推移(2010~2020年月別)
 

2011年3月に最も報道が多かったのは、3町の中では双葉町(緑色)でした。

その後毎年3月になると大きな山ができ、2012年3月には大熊町(橙色)、以降は毎年浪江町(青色)が最も取り上げられているのがわかります。

福島第一原発は双葉町と大熊町にまたがっているので、その隣町である浪江町の方が毎年報道されているというのは個人的に意外でした。

それでは時系列順に見ていきましょう。
 
 

2. 東日本大震災発生直後(2011年3月)

東北地方太平洋地震は3月11日14時46分に発生し、その後関東キー局のテレビ放送は14時48分~54分に全局緊急報道へと切り替えられました。
 

 報道時間推移(2011年3月日別)
 

3月11日当日に最も多く報道され、また最初に名前が上がったのは大熊町でした。以下はエム・データのTVメタデータの記述となります。

NHK「ニュース7」(19:59~20:29)
震災についての情報。災害用伝言ダイヤルの紹介。福島県郡山市、いわき市小名浜、岩手県久慈市、釜石市、宮古市、青森県八戸市、NHK水戸、宮城県仙台市名取付近、泉区、青葉区、NHK仙台、羽田空港の映像を紹介。(中継)千葉県市原市、都内、東京駅。【電話コメント】Aさん(福島県大熊町生活環境課・課長)

※個人名なので伏字にしました。

全国各地の地震発生状況を紹介している中で、大熊町役場の方が電話で取材に応じている様子が出ていました。
大熊町が対象となる福島第一原発半径2km圏内への避難指示が20時50分の発出なので、それよりも早い段階での取材となります。

翌12日15時36分に、原発1号機が水素爆発を起こします。福島第一原発については前日11日から各局で逐一状況が報道されておりましたが、ニュースでは所在地である大熊町、双葉町の名前は一緒に出ていなかったため、図の報道量は少なく出ています。
 

3月13日、14日にはこちらのニュースで双葉町が取り上げられます。

東京電力は福島第1原子力発電所3号機で水素爆発の可能性があることを明かした。防衛省は2回にわたり除染が必要と判断された人に実施。ロシア、米国原子力規制委員会も福島県の原子力発電所を注視。東京電力は14日から輪番停電を実施。【資料・協力】東京電力【会見】枝野幸男(官房長官)、菅直人(首相)、海江田万里(経済産業大臣)【コメント文】原子力安全保安院【コメント】井戸川克隆(双葉町・町長)【資料・協力】米国ABCテレビ【制作著作】NHK

震災情報。福島県双葉町の沖合で津波に流され屋根の上で漂流していた60歳の男性が救出された。12日に福島第1原子力発電所の1号機が爆発。政府は少なくとも約160人が放射能を浴びた可能性があると発表。東京電力が第5グループの17時~19時の計画停電を実施すると発表。(中継)福島県三春町・町民体育館。【資料・協力】東京電力【会見】枝野幸男(官房長官)、東京電力

 
そして3月19日、双葉町が大熊町と浪江町に報道量で差をつけたのは、こちらのニュースでした。

福島県では住民の県外避難が広がっている。町全体が避難指示対象の双葉町は、町役場を県外に移転することにし、住民とともに集団避難した。役場の移転先は埼玉県さいたま市「さいたまスーパーアリーナ」の避難所。屋内退避指示が出ているエリアで孤立状態となっている病院の入院患者は、警察が別の病院にバスで搬送することにした。(中継)埼玉県さいたま市「さいたまスーパーアリーナ」。【コメント】井戸川克隆(福島県双葉町・町長)

このニュースは浪江町在住の家族が自力避難していた私としては大変羨ましく、また町長が早い段階から指揮を執られているとして、当時とても印象的でした。
 
 

3. 東日本大震災以後(2012年~2020年)

 報道時間推移(2012~2020年月別)
 

震災から一年後である2012年3月に最も報道されたのは、大熊町でした。

2012/03/09
東日本大震災から1年・福島第1原発・大熊町の現実
現在、福島第1原発は修復作業が行われており、1号機は白い建屋で覆われている。3号機は線量が高く、まだむき出しのまま。第1原発周辺の集落で行われている除染モデル事業を取材。大熊町の野球場は除染作業によって出た廃棄物の仮置き場となっている。(中継)福島県会津若松市【施設】「大熊町役場会津若松出張所」。【コメント】Bさん(大熊町災害対策本部・課長)

2012/03/16
東日本大震災・福島第1原発事故・福島県大熊町「仮の町」構想公表へ
福島第1原発事故の影響で全域が警戒区域に指定されている福島県大熊町は、1万1000人の住民すべてが県内外で避難生活を余儀なくされているほか、役場も福島県会津若松市に移している。大熊町は帰還困難区域に指定される見込み。検討委員会は、県内の別の自治体に役場や住宅を集約させる「仮の町」の構想を考えた。構想では、「仮の町」の場所を決めたあと、平成26年から28年ごろまでの間に住宅などの整備を進めて役場などを移転させ、平成32年ごろまでに完了させる。候補地は福島県いわき市などが検討されていて、受け入れ自治体とも協議したうえで選定される。午後に開かれる委員会の会合で正式に公表される。

 
そして2013~2019年の3月には、大熊町・双葉町に比べ立ち入りがしやすいためか、浪江町がトップになります。

2013/03/25
安倍晋三首相・福島県視察
安倍晋三首相が福島県を訪れ、福島第1原発事故で住民の避難生活が続く福島県浪江町などを視察。浪江町は原則的に立ち入りが出来なかったが、4月から日中に限り立ち入りが一部で可能となることから、馬場有町長は安倍首相に防犯・防災対策を要請。25日午前0時から一部で住民の立ち入りが可能となった福島県富岡町も視察。遠藤勝也町長からがれきなどの仮置き場の土地買い取りの要請を受け、できるだけ答えていきたいと語った。【コメント】安倍晋三(首相)

2014/03/26
福島県浪江町・浪江小学校・仮校舎で卒業式
福島第1原発事故の影響で、福島県浪江町では全町民約2万人が避難生活を余儀なくされている。浪江小学校は二本松市の仮校舎で授業を続けている。浪江小学校は避難先で三度目の卒業式を迎えた。本校舎の現状を紹介。浪江小学校の子どもたちの存在が浪江町民のつながりを作っている。学校再開時から合唱に取り組んだ子どもたちは、2013年10月、東京西東京市【施設】「保谷こもれびホール」でのコールマイクス合唱団のコンサートに招待された。

2016/03/08
<シリーズ東日本大震災>浪江町民・それぞれの選択
東日本大震災及び福島第1原発事故から3月11日で5年が経過する。福島県浪江町では全町避難を余儀なくされ、5年が経過しても戻れない状況が続いている。浪江町は「みんなで町に戻る」というビジョンを掲げて除染などを進めているが、大幅に遅れて町に戻りたいという人が激減し、復興への展望が暗礁に乗り上げている。震災や原発事故から間もなく5年を迎える福島県浪江町の現実などについて検証。浪江町は2017年に避難指示が解除される方針が示されているが、帰還困難区域は浪江町全体の8割にも上っている。福島浪江町民「帰還の意向」について2015年9月にアンケート調査を行ったところ、「戻りたい」と回答したのは17.8%に留まり、「戻らない」と回答したのが48.0%に上っている。「浪江町商工会青年部」はB級グルメの「なみえ焼きそば」を振る舞うイベントなどを行っているが、参加メンバーは年々減少傾向にあり、活動規模も縮小気味となっている。一方、帰還困難区域の町民が除染と賠償を求めて提訴するという事態にまで発展している。【コメント】馬場有(浪江町・町長)【資料・協力】復興庁・福島県・浪江町(福島浪江町民「帰還の意向」)

2017/03/31
福島第1原発事故・福島県3町村の避難指示解除
福島第1原発によって避難指示が出されていた地域で浪江町、飯舘村、川俣町などの地域で避難指示が解除された。富岡町は4月1日に解除される。国は除染が進み放射線量は下がったという。しかし自宅への準備宿泊登録者は浪江町を含む4町村で人口の約5%程度。福島県浪江町【飲食店】「海鮮和食処くろさか」の映像。(中継)福島県浪江町

 
2020年は一部で避難指示が解除された双葉町がトップとなります。

2020/03/04
福島県双葉町・“帰還なき避難指示解除”の現状
一部で避難指示が解除された福島県双葉町は、インフラ整備が進んでいないため戻って生活する住民はいない。“帰還なき避難指示解除”の福島県双葉町の現状を取材。「産業交流センター」、「アーカイブ施設」などの大型施設の建設が行われている。「舗装材製造工場」は2019年末に稼働。産業復興の拠点と位置づけられている。【施設】「初發神社」にはご神体が戻る予定。福島県双葉町はようやく復興のスタート地点にたった。

(同じく2020年3月に大熊町も一部で避難指示が解除されました)
 

– – –

今回ご紹介したTVメタデータはローカルではなく全国でテレビ放送されているニュースですので、もちろん地元では3月だから、10年だから、というのは関係なく毎日の積み重ねの出来事であると思います。2011年以前はほとんど全国区でニュースになることなんてなかった地域ですので、いつか風化ではなく日常としてニュースになることが少なくなり、普通の町になりますように。
 

以上、浪江町、双葉町、大熊町の10年のテレビ報道でした!


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