【Talent Rank】テセウスのエンドゲーム:2020年冬ドラマのヒット傾向

新型コロナの感染が広がり、イベントの自粛や休校、テレワークなどの措置が相次いで発表されている。エンタメ業界にとっても大きなインパクトだ。

ライブなど人の集まるリアルなイベントにとっては残念な状況だが、テレビやネットなど家庭からのアクセスが可能なメディアにとってはむしろ視聴機会の獲得につながる好機になるかもしれない。

「バズるコンテンツは数字が取れる」というのが繰り返し本稿でメッセージしてきたことだが、今回のように在宅機会が増えてくると「視聴の機会を提供するトリガー」はテレビ業界にとってはますます重要なファクターになるだろう。

自宅で何げなくスマホを見ていた人が、SNSやネットのニュースで番組やタレントの話題に触れる「え? 面白そう、見てみよう」そうやってネットが次々と新規視聴者を連れてきてくれるバズる番組は、結果的に数字面でも好成績を収めることになる。

本稿でも繰り返しお伝えしてきたが、最近のドラマの視聴パターンは大きく3つに分けることができる。

 

1 お試し型

初回は好成績を収めるが、その後回を重ねるごとに視聴者が離脱していく。初期の話題性(初期値)を維持できないケース。最近は事前情報や番宣をもとにシーズンごとに面白そうなドラマの初回にチェックを入れ、その後継続視聴するドラマを絞り込んでいく視聴行動が顕著である。この視聴者の「今期の推しドラマ」に入れてもらえる要素を初回で提供できるかどうかが、クールを通しての習慣視聴者の獲得・維持に重要になっている。逆に初動で固定客をつかめなければ、数字的には初期値だけで尻すぼみとなる「お試し型ドラマ」で終わってしまう。

 

2 固定客型

初回から安定して一定の視聴者を獲得し最終回までそれを維持し続けるケース。初回の「推し習慣チェック」に合格し、クールを通してほぼ同じ視聴者に見続けてもらえるパターン。課題は視聴が固定客だけに限られ、中盤から最終回にかけて大きく数字を伸ばすことができない、また特定の性年代層のみに支持されている傾向が多いため、新たな層を追加で獲りに行くというよりは、今いるお客さんの満足の維持に保守化しがちなこと。それでも枠の数字を一定のレベルでキープできるので、ビジネス的にはここが合格点なのだろう。

 

3 バズ型

これが最近のヒットパターン。お試しに合格し、固定客を獲得するが、その固定客がドラマ内容についてバズで盛り上がり、そのバズを見た新たな視聴者が次々と来訪し、最終回に向けて爆発的に視聴者数が拡大していくパターン。またお試しに失敗し、初動で固定客が掴めなくても、ドラマを見てくれた視聴者がバズで盛り上がって、そのバズをきっかけとして結果的に大ヒットしてしまうケースも。最近の例では「3年A組(3A)」、「あなたの番です(あな番)」(いずれも日本テレビ系日曜22:30枠)などがこのケース。とくに最終回に向けての盛り上がりが顕著。課題があるとすれば、”犯人バレ”する最終回は爆発するが、中押しが録画やネット見逃しに逃げてしまい中盤のリアル視聴がそれほど伸びないことか。

そして今クールでこの「バズ型」のパターンをさらに発展させて大ヒットドラマになりつつあるのが「テセウスの船」(TBS系日曜21時枠)だ。テセウスは、最終回偏重だったバズ型のヒットの山を中盤にも作り出すことに成功した、革命的なドラマになりつつある。その成功の秘訣を見ていこう。

 

「エンドゲーム」という言葉をご存知だろうか?

エンドゲームとは、ハリウッドの制作現場などで使われる業界用語で、映画のクライマックスで決定的な力を発揮する役者や、アイテムや、エピソードのことだ。ストーリーが盛り上がり、伏線の回収が始まり、クライマックスへの道筋が見えたところで彼、彼女、それ、が現れ物語を一気にラストへと導く、その絶対的な力を秘めた存在が、エンドゲームだ。そのコンテンツの真の主役である。視聴者はエンドゲームの登場に熱狂し、感情移入し、自分がまさに物語の主役になった気分でカタルシスを味わう。この物語に夢中になれる存在があるかどうかで、視聴者のコンテンツに対するエンゲージメントが変わってくる。前回の原稿(【Talent Rank】2019秋ドラマヒットの法則:G線上のサクラとキムタク)ではこのエンドゲームを「絶対ヒロイン」と紹介した。

 

テセウスがなぜヒットしたのか、それはテセウスの「絶対ヒロイン」、上野樹里の存在だ。

すでに様々なところで語られているように、テセウスの「神回」は第4話(2/3週)、顔に水をかけられても聴衆を見据えて毅然とスピーチを続ける上野樹里の演技が、テセウスを大ヒットへと導くゲームチェンジャーになった。それはあの「あなたの番です」の視聴率好転のきっかけを作った木村多江の怪演にも匹敵する見せ場だった。

図1:「テセウスの船」出演者のTwitterトレンド
 

データをご覧いただこう。図1は「テセウスの船」出演者のTwitterトレンドだ。第一話の1/13週から主演の竹内涼真が最も話題を集めているが、上野が主要なロールを担う第4話、第5話では竹内とのポジションが逆転しているのがわかる。特にこの第4話は、テセウスを単なる際物ミステリーで終わらすか、魂と感動を得た物語に昇華させるかのターニングポイントだった。

テセウスは主人公がタイムスリップする物語だ。タイムスリップである。冷静な大人の視聴者なら、もうその設定だけで感情移入できない。超自然的な能力や設定は、物語のリアリティを損ね、フィクションとしての娯楽性を徹底的に追求するとかでもしない限り大人の鑑賞に耐えないものになる。

そんなテセウスの弱点を見事に救ったのが、あまりにもリアルな上野樹里の演技だった。上野は前作の「あさがお」でも震災のトラウマを抱えたヒロインを見事に演じて視聴者の共感を引き出した。台詞のない間合いで勝負することのできる上野のような本物の役者は、視聴者に深い感情のエンゲージメントを引き起こし、それが熱心なバズの発信に繋がっていく。際物であればあるほど、リアルな演者が必要なのだ。

「絶対ヒロイン」とは感情移入のできる絶対的な存在のことだ。だからそれは絶対ヒーローでもいい。どんなによく練られたドラマでも、視聴者が自己を投影して感動したり、涙を流したりできなければ成功しない。感情移入できる役者、設定が必要なのだ。「3年A組」、「あなたの番です」とヒットを連発したNTV系日曜2230枠の後番組がやや低調に見えるのは、そのあたりにも原因があるかもしれない。あな番の後番「ニッポンノワール」や今期の「シロでもクロでもない世界でパンダは笑う」は最終回まで伏せられた謎や斬新な設定がバズ型ミステリー・ドラマの条件を満たしてはいるのだが、どんな物語にも必要な視聴者が感情を移入して役者と一緒に物語を感動できる「絶対ヒロイン、絶対ヒーロー」が欠けていた。

一見ベタな手法なのだが、実はこれ、演じようとするとなかなかできない。その役者の持つリアルな人間性までもが、視聴者に見えてしまうからだ。また演技だけでなく、その役どころに共感できる設定も必要だ。例えば、悪や疚しさを抱えた主人公にはなかなか共感することができないものだ。そこには絶対善、絶対愛、絶対正義、絶対天然、絶対熱といった誰もが争うことのできないポジションが必要なのだ。

これではなかなか夢中になれない、泣けない、笑えない、バズれない、演劇とはそういうものだ。

今期のドラマは病院ものだったり、背後に最終回で明かされるであろう謎を抱えたミステリー設定だったり、似た傾向のドラマが多い。それらは各個に最近のドラマのヒット傾向を分析して得られた法則に基づくものなのだろう。それらの丁寧に作られたドラマは初期に得られた数値をそのまま維持する固定客型の優等生的な作りのものが多い。だが、そこからのもう一段のジャンプができるかというと、なかなかそこが難しい。そして、それらのよくできたドラマとテセウスとを分ける決定的な違いが、この「絶対ヒロイン、絶対ヒーロー」の存在だ。

テセウスが面白いのは、その「絶対ヒロイン」上野樹里が、第一話で早々と死んでしまうことだ。これにはネットも驚いて、「上野樹里の無駄遣い」という名言まで飛び出した。さらに第6話ではこの手のミステリーでは最後まで大切にとっておくべき真犯人(?)まで明らかになってしまう。定石破りである。ヒロインが初回で死んで、最終回の目玉であるはずの真犯人が中盤で明らかになる、これは本来ならミステリーとして失格だ。しかもテセウスは原作があるドラマであり、真犯人は誰かは原作を読めばわかってしまうのである(原作と同じなら)。

とてもミステリードラマとして成功しそうもない条件だらけのテセウスなのだが、TBSドラマ制作陣の凄いところはこれらを全てドラマ中押しの材料として使いまくったところだ。

先にバズ型ドラマの弱点は数字が最終回偏重になりリアル視聴の中押しが効きにくいことだと申し上げた。であるならばネットの推理を上回る形で次々に切り札(=エンドゲーム)を投入してしまえばいい、それがヒロインが初回で死んでしまい、死んだヒロインが作ってくれた愛情のこもったノートを片手に主演の竹内涼真が次々に悪手を打ちまくり、あろうことかその大切なノートを崖から投げてしまい、ついには真犯人(?)が中盤で明らかになってしまうというミステリーとしては逆張りのオンパレード・ドラマが完成する。このエンドゲーム展開の満載感が、次はどうなるかわからない、どうなるのだろう、何が起きるのだろうという視聴者の興味に直結する。そしてこのツッコミどころ満載のドラマ展開が期待通り大きなバズを巻き起こし、ネットは推理であふれ返り、だがそれらの話題の根底に上野の正義感や鈴木、榮倉の家族愛といった実力派俳優の演技が物語としてのリアリティを与え、見るものを最後に感動させてしまうのである。

これは凄い。あざとい。

「3年A組」で若手の俳優たちが見せた感情たっぷりの演技を、「テセウス」では実力派の俳優たちが引き取っている。NTVが先駆けたバズ型ドラマの流れを、今度はTBSが進化させて私たちを楽しませてくれているのである。「グランメゾン東京」と「半沢直樹」といった超大作(?)の間にあった「テセウス」が、実はドラマ界のエンドゲーム・コンテンツだったのである。

「テセウスの船」、期待の最終回まではまだまだ間がある。その間に何度も、私たちを驚かせ、感動させてくれることだろう。

いやぁ、テレビは面白い。

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