【TV Rank FinTech 考察】第7回「テレビトレンドと株価の関係」
エム・データが提供する最新のクラウド型データサービス「TV Rank FinTech」を使ってテレビと株価の関係をご紹介するシリーズの7回目は、テレビトレンドと株価の関係についてだ。
第4回記事「テレビ指数に株価が反応する条件とは?」では、テレビデータに株価が反応する条件として次の3点をご紹介した。
・「テレビ指数」が上昇期(テレビトレンドが上昇期)である
・「TV-CM指数」が前年同期比に対してプラスである
・「TV番組指数」が前年同期比に対してプラスである
今回はこの条件を満たした銘柄をピックアップして、それぞれのテレビ指数の推移と同じ時期の株価の変化から、テレビトレンドと株価の関係について明らかにしていく。
図1は、財務会計システム「勘定奉行」でお馴染みのオービック(TYO:4684)の2022年8月から23年11月までの週あたりの「TV-CM指数」(オレンジの棒)、「TV番組指数」(ブルーの棒)、TV-CM指数と番組指数を合算した「テレビ指数」の中期トレンド線(13週平均、緑のライン)と短期トレンド線(7週平均、ピンクのライン)、そしてオービックの週の株価の終値(赤のライン)の推移である。
オービックは、
・「テレビ指数」が複数の週で上昇期(テレビトレンドが上昇期)にあり
・「TV-CM指数」が2023年のすべての四半期で前年同期比に対してプラス
・「TV番組指数」が2023年第3四半期で前年同期比に対してプラス
と、先にあげたテレビデータに株価が反応する条件を満たした銘柄の一つだ。
図1を見ると、大きく二つのテレビ指数の上昇期、つまりテレビトレンドの上昇期があることがわかる。
テレビトレンドの上昇期とは、図の上から三番目のグラフのピンクの線で表したテレビ指数の7週移動平均線が、同じく緑の線で表したテレビ指数の13週移動平均線を上回っている状態、つまりテレビ指数の短期トレンドを示すピンクの線が中期トレンドを示す緑の線よりも上にある状態、のことである。テレビ指数の短期トレンドが中期トレンドを上回っているということは、過去7週間のテレビ露出の平均値の方が過去13週間の平均よりも大きい状態であるということ、過去13週と比べて直近7週の方がテレビ露出が多いということ、テレビ露出量が上昇しているということ、これをテレビトレンドの上昇期と呼んでいる。過去13週間と比べて過去7週間の方がその銘柄のテレビ露出量が多かった=テレビトレンドが上昇しているというわけである。
では、このオービックのテレビトレンドの上昇期には何があったのだろう?何がテレビトレンドを上昇させたのだろうか。
一つ目のテレビトレンドの上昇期、つまりピンクの線が緑の線の上にあった期間は、2023年1月2日週から23年2月20日週までの8週間であった。
二つ目の上昇期は、23年5月1日週から始まり、途中23年7月10日週から2週間の下降期(ピンクの線が緑の線の下になる)を挟んで23年10月2日週まで続いている。その期間は間の2週間の下降期も含め21週間にも及んでいる。
一つ目の23年1月2日週から始まるテレビトレンドの上昇期の上昇要因は二つ、まず図の一番上のオレンジの棒グラフである「TV-CM指数」が22年12月26日週から5週連続で「TV-CM指数=1」を越える増加を示していること、そして同時に二番目のブルーの棒グラフで示した「TV番組指数」もこの図の収録期間である22年8月以降では初めて番組露出を果たし、指数的には小さいが23年1月16日週から2週連続でTV番組指数が記録されている。以上の二点が一つ目のテレビトレンド上昇期の上昇要因であった。
特にここでの最大のトレンド上昇要因であるTV-CM指数が5週連続で1を超えている点、これには注目だ。第一回目の原稿でご説明した通り、TV-CM指数とTV番組指数の1とは、テレビに露出した全てのTOPIX構成銘柄の週あたりの年間露出量平均値を示しており、指数=1を超えるということはTOPIX構成全銘柄の週あたりの平均値である1以上のテレビ露出を果たした銘柄ということになる。わかりやすく言うと「平均以上にテレビで目立った銘柄」と言うことだ。
指数=1以下の銘柄、平均以下のテレビ露出量の銘柄とは、わかりやすくいうとテレビでは埋もれている状態、日々流れる情報量の中で量的に目立つことなく流されていく状態であると言える。平均以上のテレビ露出量ということは、量的に他よりも目立って露出した状態、平均以上にパフォーマンスした状態である。言葉は悪いかもしれないが、クラスの学力平均以上の顔ぶれと、平均以下の顔ぶれを思い浮かべていただくといいかもしれない。あるいは、チームでの走力が平均以上のメンバーと、平均以下のメンバー。
テレビ露出量が株価に影響を与えているとしたら、どちらのグループにより可能性があるかは明白ではないだろうか。
ちなみにTOPIX構成全銘柄のうち35%にあたる760銘柄がTV番組に、また28%にあたる605銘柄がTV-CMに露出しており、これらのTV露出銘柄の平均以上ということは単純にTOPIXの構成銘柄全体からみてその上位15%前後のテレビ露出レベルに入った銘柄ということになる。目立つ銘柄の上位15%に入ったということだ。「株価とは銘柄の人気投票である」という説明を聞くことがある。全銘柄の15%以上に入るということは、それだけでとても魅力的なことではないだろうか?
それほど魅力的なものなら年間を通して全ての週でCMと番組を指数=1以上にすればいい、という考え方もあるかもしれないが、それを現実に行うにはTV-CMにかかる費用面や継続的な企業情報の創出など実現は極めて困難であり、各企業ともこの指数=1を超えさせる”ブースト週”を年間のどこの期間に持ってくるのかが、経営オペレーション上の重要な判断となっている。
このことは今回の原稿でもお分かりいただけるのではないかと思う。つまり、それぞれの銘柄のテレビ指数のトレンドを見ることで、その銘柄の営業注力期間が年間のどこにあるのかが可視化できるのだ。それがわかれば株価が”ブースト”していく期間も想定できる。
オービックのこのテレビトレンドに現れた「指数=1」越えには、同社の重要な戦略が込められているのだ。
ではこのテレビトレンドの上昇期に株価は実際にどう動いたのだろうか。特に「指数=1」以上の週の前と後で、それはどうであったのか。
図1の一番下の赤線、オービックの週の株価の終値をご覧いただこう。初見では、ご紹介した二つのテレビトレンドの上昇期に合わせるようにオービックの株価もまた上昇しているように見える。
では週ごとのテレビ指数の変化との関係で見ると、株価の反応はどうだったのだろう?
一つ目のテレビトレンド上昇期である2023年1月2日週から23年2月20日週までの8週間では、株価は22年12月26日週の終値、19,410で週足が底打ちをしてからはその翌週から始まるテレビトレンドの上昇を追いかけるようにして株価も上昇を開始し、5週連続の「TV-CM指数=1」越えが終わった翌週の23年1月30日週に株価もこの期間の終値のピークである21,060を記録、テレビトレンドの上昇開始から「TV-CM指数=1」越えが終わる5週目で株価も8.5%の上昇を見せたのである。
いかがだろう、株価の上昇期間がTV-CM指数の上昇期と完全に一致しているのがご理解いただけるだろうか。繰り返すが、「完全に一致」だ。
二つ目のテレビトレンド上昇期である23年5月1日週から、途中23年7月10日週から2週間の下降期を挟んで23年10月2日週まで続く21週間の大型上昇期ではどうだろう。
株価は23年5月1日のテレビトレンド上昇期の初週、つまりテレビトレンドの短中期トレンドの逆転であるゴールデンクロスがあった週に、一つ目のテレビトレンド上昇期中の株価ピーク値であった21,060を越える21,520を記録、その後も株価は上昇を続け二つ目のTVトレンド上昇期の18週目にあたる23年8月28日週に2023年の数の終値の最高値、25,310をつけた。
これは二つ目のテレビトレンド上昇期直前の終値、20,910からは21%もの上昇率である。
二つ目のテレビトレンド上昇期でも、上昇期の初週である23年5月1日週から4週連続で「TV-CM指数=1」超えを記録、その後も断続的にTV-CM指数は1を超え、23年7月24日週から23年9月25日週までの10週では9週で「TV-CM指数=1」を超えていた。
上昇期間中番組も4週で記録、オービックの2023年最高値はそんなテレビトレンドの上昇期中に達成されている。
いかがだろう、テレビ指数の週ごとの変化、とくにテレビトレンドの上昇期間中は株価も指数に影響を受けて上昇しているように見えるのではないだろうか。
それでは、株価に影響を与えているように見えるこの二つのテレビトレンド上昇期間中のTV-CMとTV番組の内容は、どのようなものだったのだろうか?
その内容は株価の上昇に影響を与えるようなものだったのだろうか。TV Rank FINTECHに収録されたTV-CMやTV番組のスーパーの文字情報やナレーションの音声情報などのメタ情報をつかって、トレンド上昇期間中のオービックのTV-CM内容と番組内容を見てみよう。
一つ目の上昇期間中、22年12月26日週から5週連続で「TV-CM指数=1」を越えたTV-CMの内容は、以下の通りだ。
「奉行クラウド Edge」
奉行クラウド、2023年10月インボイス制度、2024年1月電子帳簿保存法改正、BtoB対応、奉行請求管理電子化クラウドでデジタル化、あらゆる販売管理システム、API連携、請求管理電子化クラウド、請求業務のプロセスを削減
次は同じ時期、23年1月のTV番組の内容だ。
フジテレビ「ビジネスStyle」
オービックビジネスコンサルタントではインボイス制度、改正電子帳簿保存法に対応したサービスを開始した。【商品】「奉行クラウドEdge」は請求書の印刷・封入・封緘などの作業や経費を軽減する。【企業】ビックビジネスコンサルタント・和田成史代表取締役社長から話を伺う。【商品】「奉行シリーズ」の導入実績は累計69万社。インボイス制度や改正電子帳簿保存法で経理のDX化が求められる今、オービックビジネスコンサルタントの戦略に注目する。
最後は二つ目の上昇期間中の「TV-CM指数=1」を越えたTV-CM、その内容は一回目のTV-CMのメッセージをシンプルにストレートに改訂したものになっていた。
「財務会計システム 勘定奉行クラウド」
どうする?、インボイス制度・電子帳簿保存法改正、2大法改正に対応、適格請求書、AI銀行入出金、証憑収集・ペーパーレス保管、勘定科目内訳明細書、日本中が注目!、IT導入補助金対象ツール
いかがだろう、2023年のオービックの株価上昇の理由がおわかりいただけただろうか。
その理由はご紹介したTV-CMとTV番組の内容で明らかなように、23年10月1日から開始された消費税の仕入税額控除の方式として導入された「インボイス制度」である。オービックはこのインボイス制度関連銘柄として株が買われていたのである。
「指数=1」越えとなる”ブースト週”を年間のどの期間に持ってくるのかが経営オペレーション上の重要な戦略判断となるとご紹介したが、この「インボイス制度」というテーマで今回ご紹介したテレビトレンドの上昇期間を見直すとオービックの判断がどのようなものだったのかが分かる。
まず2023年1月2日週からはじまる一つ目のテレビトレンド上昇期は、「インボイス制度」というテーマで見ると、タイミング的には新たな会計年度のスタートに合わせたものだ。
23年5月1日週からの二つ目のテレビトレンド上昇期は、2023年5月19日に同社がプレスリリースしたインボイス制度と改正電帳法業務に1つの会計システムで対応できる新しい「勘定奉行クラウド」の発売にタイミングを合わせたものになる。5月の注力期間はインボイス制度が施行される10月にピークを迎え、それまでは断続的に「指数=1」越えとなる”ブースト週”が設定される。
これが2023年の同社の営業注力期間であり経営資源集中期間である。株価はその匂いを嗅ぎ取って上昇を続け、TVメタデータはそれを記録しテレビ指数の変化を見れば銘柄ごとの戦略をこのように可視化できるのである。
テレビ指数の変化をリアルタイムで追えば、株価の反応よりも先にアラートを出すことも可能となる。たとえば、先にご紹介したテレビトレンドの短期トレンド線が中期トレンド線を上抜けるいわゆるゴールデンクロスのタイミングでオービックの株を買っていたらどうであっただろう。
エム・データが提供する最新のクラウド型データサービス「TV Rank FINTECH」を使えば、それも可能となるのだ。
いかがだろう、テレビトレンドと株価の関係に可能性を感じていただけただろうか。
過去の株価の変化からテクニカルに分析を加えるのが従来の手法だとしたら、株価以外のデータソースを使って同様にテクニカルな分析を行なっていくのがこのような新しいアプローチ方法だ。従来の手法にテレビデータによる分析を加えることで、株価に対する精度を多角的により高めることができるのではないだろうか。
次回はテレビ以外の新たな評価データも加えて、テレビ指数と株価の関係をさらに詳しく掘り下げてみる。
つづく
シリーズ連載「TV Rank FinTech 考察」
第1回 「テレビデータで株価を見る」
第2回 「テレビ指数が上昇すると株価も上がる?」
第3回 「TV-CMは株価を上げるか?」
第4回 「テレビ指数に株価が反応する条件とは?」
第5回 「タレントは株価を上げるか?」
第6回 「CMクリエイティブで株価を上げる方法」
第7回 「テレビトレンドと株価の関係」
第8回 「TV-CM効果と株価の関係」
第9回 「TV-CM効果と株価の関係〜2」
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著者:梅田仁 | Jin Umeda
ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)所長
iPhone、iPod、iTunes、Mac、Apple TV、Apple Storeのシニア・マーケティング・プロデューサーとして、Apple(AAPL)を時価総額世界一のブランドに育て上げることに貢献。iTunesで取り扱う内外のエンターテインメント・コンテンツ、アーチストの需要トレンド、視聴者の嗜好パターン分析を通してプラットフォームメディアビジネスにも精通。2013年、ライフログ総合研究所を設立、TV Rank、Talent Rankサービスを展開中。著書:「売れない時代に売る新常識」出版文化社、2011