【TV Rank FinTech 考察】第1回「テレビデータで株価を見る」
日経平均が史上最高値の4万円台を突破し日本経済にとって久々の明るい話題が提供された。
株価は企業業績に対する期待の反映であり、今回の株高は内外の多くの人々が日本経済の先行きに楽観的な見通しを持っている結果であると言えるだろう。
実感としてはまだまだ社会全体が好景気という状況ではないかもしれないが、株式市場から始まったこの新しい基調の波がどこに打ち寄せているのかが分かれば、他に先んじて好況の恩恵に浴することも可能になるかもしれない。
今回はTV Rankの最新版を使って、日本経済をリードする好調企業や成長業種を発見する方法を数回のシリーズでご紹介していこう。
TV Rankは民放各局と大手広告代理店の出資を受けてTVの放送内容をデータベース化(TVメタデータ)しているエム・データが提供しているクラウド型のデータサービスである。
その最新版である「TV Rank FinTech」は、東京証券取引所に上場している全銘柄のTV-CMとTV番組での露出状況を集計したサービスだ。全銘柄のランキングやトレンドなどのメニューのほかに、上場銘柄の証券コードを入力するだけで各銘柄のTV媒体上での露出状況や動向をダッシュボード形式で閲覧することができる。投資家や金融機関にとってはTVデータを保有銘柄の状況把握や今後の投資判断に活用することができるし、融資やM&Aなど銘柄やセクターに関する概況データとしての利用も可能となるだろう。もちろん、一般企業にとっても競合分析や市況把握、マーケティング戦略の立案に欠かせないツールであると言える。
早速その内容を見ていこう
図1は2023年11月19日週のTV-CM銘柄ランキング、この週の全ての上場銘柄のTV-CM放映秒数ランキングだ。この週最もTV-CMを放映したのはアサヒグループHD(東証2502)だった。
TV-CMの放映量が多いということは、
・その銘柄のTV-CM対象製品、サービスへのマーケティング投資が多い
と言うことができる。
マーケティング投資は一定の将来業績への期待を持って行われるわけであるから、他社と比べて多くのTV-CMを放映している企業銘柄はそれだけ多くの業績見通しを立てていると判断できるわけである。各銘柄の決算や業績見通しが公示される前に、直近の実働データを用いて企業の活動状況、経営判断が把握できるのだ。株価がそれぞれの企業の業績に対する市場の期待値で構成されているのであれば、このリアルタイムのマーケティング・データは、公示前の先行指標として株価に織り込んでいく一要素として大きな可能性を持つと言えるだろう。
図1に戻ろう。
このランキングは、言い換えれば集計時点で積極的なTV-CM投資を行っている銘柄のリストだ。
予算的にマーケティング投資の多くの部分を占めるのがTV-CMであり、ここにリストされている銘柄はそれぞれの経営判断において他企業よりも強気の投資判断を行なっている注目株たちだ。それぞれの強気さの度合いはリストの最初の指標である「TV-CM指数」を見ていただければわかる。
「TV-CM指数」とは、2022年1〜12月の関東地区でのTOPIX構成全銘柄のTV-CM露出量の週あたり平均値を1とした時の指数である。ランキング1位のアサヒグループHDであれば、TOPIX構成全銘柄のCM露出量の16.73倍ものTV-CMをこの週に実施したことになる。それだけ強気の投資判断の背景には何があるのか、ステークホルダーにとっては興味のあるデータではないだろうか。
この「TV-CM指数」により、私たちは今まさに進行中のマーケティング投資の状況を端的に理解することが可能となる。たとえば、この週は上位4銘柄がTOPIX平均に対して10倍以上の投資を行っていること、トップ15銘柄が5倍以上であること、トップ30前後でも3倍以上の規模であること。この指数感覚を持っていれば、対象銘柄の投資判断が市場平均に対してどのくらいのウエイトで実行されているのかが端的にわかるわけだ。その結果が収益として回収されPBRにどの程度の貢献をしているのかを分析すれば、銘柄ごとの生産性を把握することも可能となる。なかなか魅力的な指標ではないだろうか。
このランキングには他にも、実際のTV-CM放映秒数である「TV-CM秒数」、前週との放映秒数差である「TV-CM前週差」、TV-CM秒数がその銘柄の7週平均値に対してどの程度の大きさ(比率)であるのかを示した「TV-CM乖離率」が収録されている。
同程度のランキングであっても、これらの指標を使って銘柄ごとの数値を比較していくと同じようなTV-CM規模の銘柄でもその背景が異なっていることがわかる。たとえば7位のキリンHD(東証2503)と8位の日産自動車(東証7201)。TV-CM指数は7位のキリンが6.49で8位の日産が5.79、どちらもTOPIX平均の6倍前後と同程度のTV-CM量を投下しているわけだが、他の指標を見ることでこの両銘柄の違いが見えてくる。たとえばTV-CM前週差、キリンは前週に対して-405秒と減少して7位であるのに対して、日産は対前週1,740秒の増加で8位となっている。
この状況は次のTV-CM乖離率を見ることでよりクリアになる。TV-CM乖離率とはその銘柄の7週平均値に対しての比率であると説明したが、この場合、キリンのTV-CM秒数は同銘柄のTV-CM7週平均値に対して14.8%のマイナス、反対に日産は68.7%のプラスでる。つまり両銘柄はTOPIX平均の6倍前後と同程度のTV-CM量ではあるが、キリンは前週に対して-405秒と減少しており同銘柄のCM7週平均値に対しても-14.8%とTV-CM量が下落傾向にあることがわかる。反対に日産は対前週1,740秒の増加で同銘柄の7週平均値に対しても68.7%のプラス圏にいる。
おわかりだろうか、両銘柄は7位と8位と言う同程度のTV-CM量ではあるが、キリンは前週から減少し同銘柄の直近平均値からも下降していく途中であり、反対に日産は前週から増加し同銘柄の直近平均値に対しても大幅に上昇しているのだ。
ランキングの順位では同程度でも、個々の銘柄のトレンドはそれぞれ異なっていることがお分かりいただけたであろうか。このように、収録された指標を読み込んでいただくことで、銘柄ごとの状況の違いがご理解いただけるようになっている。たとえば、キリンや日産よりも下位にある銘柄でもTV-CM乖離率が大幅にプラスになっている銘柄は今後の更なる上昇も期待できる注目銘柄と言えるのではないだろうか。
また細かい数値をここまで読みこんでいただかなくても、ランクの数値の右にある「CM-GX」をご覧いただければ、TV-CMが上昇傾向にある注目銘柄を瞬時に把握いただくことが可能だ。
CM-GXとは、TV-CMのゴールデンクロス、その週にTV-CMの放映トレンドがトレンドの転換点(ゴールデンクロス)を迎えた銘柄である。赤い星印のついた銘柄は、TV-CM放映量トレンドがテクニカルに上昇シグナルを点灯させた銘柄であると言うことだ。これは、TV-CM放映秒数の短期トレンド値(7週平均)が中期トレンド値(13週平均)を計算上上回ったことを示しており、このサインが現れるとその銘柄のTV-CM放映量が今後継続的に上昇していく傾向にあることを示している。この赤い星を見ていただくだけで、TV-CM量の増加が期待できる、つまりマーケティング投資のさらなる拡大が短期的見込める銘柄が把握できるのだ。
いかがだろう、TV Rank FinTechをオルタナティブデータとして用いることで、各銘柄ごとの現在のマーケティング状況を各指標の公示よりも前に把握することができるのではないだろうか。
次回は、いよいよ株価とテレビデータの関係についてご紹介する。
つづく
シリーズ連載「TV Rank FinTech 考察」
第1回 「テレビデータで株価を見る」
第2回 「テレビ指数が上昇すると株価も上がる?」
第3回 「TV-CMは株価を上げるか?」
第4回 「テレビ指数に株価が反応する条件とは?」
第5回 「タレントは株価を上げるか?」
第6回 「CMクリエイティブで株価を上げる方法」
第7回 「テレビトレンドと株価の関係」
第8回 「TV-CM効果と株価の関係」
第9回 「TV-CM効果と株価の関係〜2」
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著者:梅田仁 | Jin Umeda
ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)所長
iPhone、iPod、iTunes、Mac、Apple TV、Apple Storeのシニア・マーケティング・プロデューサーとして、Apple(AAPL)を時価総額世界一のブランドに育て上げることに貢献。iTunesで取り扱う内外のエンターテインメント・コンテンツ、アーチストの需要トレンド、視聴者の嗜好パターン分析を通してプラットフォームメディアビジネスにも精通。2013年、ライフログ総合研究所を設立、TV Rank、Talent Rankサービスを展開中。著書:「売れない時代に売る新常識」出版文化社、2011